バスの車高調整の仕組みとは?乗降時に車体が上下する理由を解説

バス
バスが停留所で止まるたびに車体を上下させたり左側に傾けたりする様子を見たことはありませんか?乗客が一斉に移動して偏った重みで傾いているわけではなく、実はバス自体の機能なのです。

では、なぜバスは乗り降りのたびに車高調整を行うのでしょうか? 本記事では、バスの車高調整の仕組みとその理由について、クルマ初心者にも分かりやすく解説します。日常でふと「なるほど!」と感じる豆知識も交えながら見ていきましょう。
Chapter
バスのエアサスペンションと車高調整の仕組み
エアサスペンションとは
ニーリングとクラウチング
豆知識:バスから聞こえるプシューという音
なぜバスは車高を変化させる必要があるのか
ユニバーサルデザインのための車高調整
エアサスペンションの自動調整と乗り心地の向上
豆知識:ノンステップバスとバリアフリー化
エアサスペンションのメリットとデメリット
メリット①:乗降のしやすさ向上
メリット②:車高の自動調整
メリット③:乗り心地の向上
デメリット①:製造コストの増加
デメリット②:メンテナンスの手間
デメリット③:運用コスト増
最新技術と今後の展望
まとめ

バスのエアサスペンションと車高調整の仕組み

エアサスペンションとは

最近、停留所でバスが止まるたびに車体を左側(乗降口側)に傾けている光景が一般的になっています。

これはバスがエアサスペンション(空気ばね式サスペンション)を採用しているからです。エアサスペンションとは、その名の通り空気のばね(エアバッグ)を用いたサスペンションで、近年バスやトラックにも普及しつつある仕組みです。

従来の鋼製スプリング(板ばね)に代わり、エアバッグに圧縮空気を封入することで弾性体の役割を果たし、空気圧を調整することで車体の高さ(車高)を上下できます。運転席にはこの車高を調整するスイッチがあり、必要に応じて車体を上下させることが可能です。

ニーリングとクラウチング

バスでは停車中に左側のエアサスの空気圧だけを下げることで、車体の左側だけを沈み込ませることができます。これにより、バス全体が左に傾いたような状態になり、乗降口の高さが下がります。

乗客の乗り降りが終わり出発する際には、再び空気を送り込んで車高を元に戻します。このように停留所でバスがひざまずくように片側だけ車高を下げる機能は、英語でニーリング (kneeling)と呼ばれています。日本語では「跪く(ひざまずく)」という意味で、バスがまるで片膝をつくように傾くことからそう呼ばれています。

一方、観光バスなどで前輪側(フロント)を沈めて車体前部を下げる機構クラウチング (crouching) と呼ばれます。ニーリングは主に路線バスの乗降時に使われる機能で、クラウチングは観光バスなどで前扉ステップの高さを下げる際に用いられます。いずれもエアサスペンション制御による車高調整機能の一種です。

豆知識:バスから聞こえるプシューという音

バスが停留所で停車中にプシューという空気の抜ける音を聞いたことがあるかもしれません。

あれはエアサスペンションのエアを抜いて車体を下げている音です。逆に発車前にはコンプレッサーで空気を送り込み、シュゴーッという音とともに車体が元の高さに戻ります。何気ない音ですが、バスが乗客のためにひざまずいている合図だと分かると面白いですね。

なぜバスは車高を変化させる必要があるのか

ユニバーサルデザインのための車高調整

バスだけがこのような車高調整機能を採用しているのには、公共交通機関としてのユニバーサルデザイン「誰もが使いやすい設計」の要請があります。さまざまな人にとって快適に利用できる乗り物であることが公共交通では重要です。

特にバスでは、乗降時にステップ(段差)の高さが人によっては負担となる場合があります。例えば膝や股関節が弱く深く曲げられない方、身長の低い子供、車椅子利用者、妊婦さん、足腰の弱った高齢者などにとって、高いステップは乗り降りの大きな障壁です。

そこで、停車のたびに車体左側を下げてステップ部分を路面や歩道に近づけることで、段差を縮小しスムーズな乗り降りを可能にしているのです。

まさにバスが「膝をついて」お客様を迎えるような姿勢になるわけですね。

エアサスペンションの自動調整と乗り心地の向上

加えて、エアサスペンションには車両の姿勢を自動調整できるメリットもあります。乗客が増えて車内が満員になっても、エアバッグ内の空気圧を高めることで車高を適正な高さに保つことができます。

逆に乗客が少ないときは空気圧を下げて柔軟にサスを効かせる、といった具合に荷重に応じて車高や乗り心地を調整できるのです。これにより常に安定した車高と姿勢を維持し、乗り心地も向上します。

路面からの衝撃を空気ばねが吸収するため、従来の板ばね式に比べて振動が和らぎ快適になるという利点もあります。高級車や長距離バスでエアサスが好まれる理由の一つです。

豆知識:ノンステップバスとバリアフリー化

ニーリング機能は主にノンステップバスと呼ばれる低床バスに搭載されています。ノンステップバスは床が低く段差が少ないバスで、車椅子やベビーカーでも乗り込みやすい設計です。

日本では2000年頃からノンステップバスの導入が進み、公共交通機関のバリアフリー化が推進されてきました。国土交通省の発表によると、2023年3月末時点で全国の路線バス車両の約68%がノンステップバスになっています。政府は2025年度までに更なる普及を目標としており、主要都市では新造バスのほとんどがノンステップ化されています。

ニーリング機構はこのノンステップバスに不可欠な機能で、誰もが利用しやすい公共交通を実現するための技術的支柱となっているのです。

エアサスペンションのメリットとデメリット

メリット①:乗降のしやすさ向上

先述の通り、ニーリング機能によって乗降口の段差を減らせるため、乗客(特に高齢者や子供、障がい者)の負担が大幅に軽減されます。バリアフリーで誰もが利用しやすいバス運行に不可欠なメリットです。

メリット②:車高の自動調整

乗客数や荷物の重量に応じて空気圧を調整し、常に最適な車高を維持できます。乗車率が高く重くなっても車体が沈み込みすぎず、逆に軽い時は適度に柔らかくなるため、走行安定性や乗り心地が常に一定に保たれます。

メリット③:乗り心地の向上

空気ばねは路面からの細かな振動や衝撃を吸収しやすく、従来の板ばね式サスペンションよりも滑らかな乗り心地を提供します。長時間の乗車でも疲れにくく、観光バスなどでは快適性向上に寄与しています。

デメリット①:製造コストの増加

エアサスペンションは従来の金属バネに比べて構造が複雑で、エアコンプレッサーやエアタンク、バルブ制御装置など追加部品も必要なため車両価格が高くなります。バス1台あたりの導入コスト増は事業者にとって負担です。

デメリット②:メンテナンスの手間

空気圧で制御するシステムゆえ、定期的な点検やメンテナンスが欠かせません。ゴム製のエアバッグは経年劣化しますし、配管部からのエア漏れが起きることもあります。整備不良だと走行中に突然エアが抜けて車高が下がってしまうトラブルが発生する場合もあり、安全運行のための管理が重要です。

デメリット③:運用コスト増

部品点数が増えることで故障リスクも上がり、交換部品代や整備工賃などランニングコストも高めです。バス事業者にとってはエアサス搭載車は維持費がかさむというデメリットがあります。しかし近年は技術革新により部品の信頼性向上やコスト低減も進んでおり、この課題の克服が期待されています。

最新技術と今後の展望

現在のところコスト面などの課題はあるものの、バスのバリアフリー化にはエアサスペンションによる車高調整機能が必要不可欠です。そのため各メーカーも改良を重ねており、最新のバスではより高性能な電子制御サスペンションが登場しています。

例えばドイツの大手部品メーカーZFが開発した第5世代エレクトロニックエアサスペンション(ECAS)システム「OptiRide」は、空気ばねの制御バルブと圧力センサーを一体化したスマートアクチュエーターを採用し、部品点数を大幅に削減しました。

このシステムは車両シャシー(車体)を自在に上下させて効率的な乗降や積み下ろしを可能にし、荷重に応じた高度な安定性制御も提供します。2025年にはヒョンデ(現代自動車)の日本向け路線バスにも採用され、乗降性の一層の向上に寄与すると発表されています。

このように技術の進歩によって、エアサスペンションはより信頼性が高く低コストで扱えるものへと進化しつつあります。将来的にはメンテナンス負担の少ない素材の採用や、更なる電子制御によるきめ細かな姿勢制御などが実現し、バスの快適性と利便性が一段と高まっていくでしょう。

まとめ

バスが乗降のたびに車高を上下させたり片側に傾けたりするのは、エアサスペンションによる車高調整機能(ニーリング)が働いているためです。段差を低く抑えて誰もが乗り降りしやすいように配慮する仕組みであり、現在の路線バスでは欠かせない機能となっています。

確かに導入や維持にはコストがかかりますが、それを補って余りある公共性の高いメリットがあると言えるでしょう。次回バスに乗る際には、停留所で車体が静かに沈み込む様子や聞き慣れたエアの排出音に注目してみてください。バスがどうぞご乗車くださいと膝を折って迎えてくれているように感じられて、きっと「なるほど、こういう仕組みだったのか!」と実感できるはずです。

バスの車高調整機能を知れば、普段のバス移動が今までより少し面白くなるかもしれませんね。
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