F1がとあるサスペンションを採用する理由とは?

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現在の乗用車に使われているフロントサスペンションは、マクファーソン・ストラット形式、ダブル・ウィッシュボーン形式、マルチリンク形式、の3つに大きく分けられます。これらは、クルマの目標性能によって使い分けがされており、後者になるほどに性能は優れていきます。ですがF1マシンには、なぜかダブル・ウィッシュボーン形式が採用されています。サスペンション形式としてはマルチリンク式の方が優れているはずなのに、なぜF1はダブル・ウィッシュボーン形式を採用しているのでしょうか?

文・吉川賢一
Chapter
F1のサスペンションについて①|ダブル・ウィッシュボーン形式とは?
F1のサスペンションについて②|ハイアッパーアーム型ダブル・ウィッシュボーン形式の利点
F1のサスペンションについて③|F1がマルチリンク形式ではない理由

F1のサスペンションについて①|ダブル・ウィッシュボーン形式とは?

ウィッシュボーンとは鳥の鎖骨のこと。この鎖骨に似た、A字型の形状をした上下2組のアーム(アッパーアームとロワアーム)で、タイヤを支えるサスペンションを、ダブル・ウィッシュボーン形式サスペンション、と呼んでいます。

ストラット式と比較した際のメリットは、サスペンションの横剛性を確保しやすい。コーナリング中にスプリングとショックアブソーバに曲げの応力が加わらないため、サスペンションストロークがスムーズになる。キャンバー角をコントロールしやすく、常にタイヤを垂直に保てるため、接地性を高めてコーナリングフォースを確保できる。など非常にたくさんあります。

特に、フロントサスペンションに搭載されるダブル・ウィッシュボーン形式は、アッパーアームがタイヤの上側に来ているタイプが多く、通称ハイアッパーアーム型のダブル・ウィッシュボーン形式といわれています。じつは、乗用車に用いられているサスペンションは、ほとんどこのハイアッパーアーム型なのです。

F1のサスペンションについて②|ハイアッパーアーム型ダブル・ウィッシュボーン形式の利点

好まれる理由の一つは、スペース効率が優れていることです。サスペンションがストロークした際、接地点が左右に動く量(スカッフ変化)は、なるべく小さくする必要があります。スカッフ変化が大きいと横方向の踏ん張りが効かないため、コーナリングをする度に、グネグネしたクルマの動きを感じてしまいます。

そこで、このスカッフ変化を減らすために、上下のサスペンションアームは長くしたいのですが、アッパーアームを長くとると、エンジンルームに突き出てしまいます。そのため、アッパーアームはタイヤ上方に移し、そうすることで少ないスペースでレイアウトすることを可能にしているのです。

二つ目の理由は、ハイアッパー型の方がアッパーリンクの取付点のジオメトリ調節に余裕があるため、ロールセンター高、キャンバー角変化、キャンバー剛性といったジオメトリの設計が容易となり、理想のジオメトリに近づけることができます。

F1のサスペンションについて③|F1がマルチリンク形式ではない理由

F1のフロントサスペンションは、ローアッパーアーム型のダブル・ウィッシュボーン形式です。エンジンがリアミッドにあるためにアッパーアームを避けなくてよい、ということはあるのですが、よりセッティングの自由度が上がるマルチリンク形式ではない理由、それは、過剰な性能向上が不要であるためと、ブッシュのたわみによる遅れを嫌うためです。

マルチリンク形式はダブル・ウィッシュボーン形式の良いところを継承しながら、さらに乗り心地やNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)を磨くことが主目的です。これらはF1マシンが求める、限界領域での操縦性には不必要な項目であり、コントロール性を上げるセッティングを施したダブル・ウィッシュボーンであれば、十分と考えられるためです。

そして、サスペンションリンクの両端には、必ずブッシュのついた固定点があります。マルチリンク形式の場合、このブッシュのたわみを使ってサスペンション特性をコントロールしていることが多いです。そのため、ブッシュのたわみが原因となる応答遅れがどうしても発生します。

F1の場合、たわみによる一瞬の遅れすら排除したいので、ピロボールという金属製のジョイントを入れるため、ブッシュを介してのサスペンションの動きが発生せず、よりダイレクトで、緻密なハンドリングができるようになります。


乗用車の場合、高速道路などで長距離を移動したり、荒れた道を走行したりと、あらゆる路面を安心して走行できることを目指していますが、F1マシンは、サーキットという限られた領域で、パフォーマンスが引き出せればよいのです。

そのため、構造がシンプルで、かつセッティング変更がしやすい、ダブル・ウィッシュボーン形式が採用されているのです。

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