小さいクルマなのにどうして最小回転半径が大きいの?

ルノー トゥインゴ (2014)

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「うっかり曲がるべきところを間違えてしまった、いま来た道をUターンして戻りたい」、皆さんもこんなシーンに出くわしたことが一度はありますよね。そんなときに気になるのが、「一発でUターンできるのか?」ということ。こういった車の小回り性を表す性能として『最小回転半径』という数値があります。この最小回転半径は、カタログにも載っている重要な性能。今回は、この回転半径について見ていきます。

文・吉川賢一
Chapter
回転半径は、どうやって計測するの?
最小回転半径の相場は?

回転半径は、どうやって計測するの?

右か左にハンドルを奥まで切った状態で旋回した時に、一番外側のタイヤの中心が描く円の半径を『最小回転半径』といいます。メーカーはこの数値を国土交通省へ提出し、認可を受け、クルマのカタログに掲載します。

じつはこの数値、実車で計測をしたものではなく、計算によって割り出す理論値なのです。実際に測定しない理由は、検査車両のばらつき、計測時の誤差、試験場の状態(気温、埃など)などによって1台1台数値が変わり、予測不能の結果が出やすいためです。

ちなみにその数値は、フロントタイヤの最大切れ角が影響するため、サスペンション設計者が割り出すことが多いです。

この最小回転半径は「5.0m以下だと小回りが利くクルマ」だと、一般的に言われています。逆に、6.0mに近いと小回りが利かず、不便に感じてしまうようです。では最近発売されたクルマは、どの程度の実力なのか、車両カテゴリー毎に見ていきます。

最小回転半径の相場は?

日本で販売されている乗用車(軽を除く)の最小回転半径を、いくつか抜粋しました。

4.3m ルノー トゥインゴ
4.5m 日産 マーチ
4.6m トヨタ パッソ、三菱 ミラージュ、VW up!
4.7m トヨタ ヴィッツ、マツダ ロードスター、マツダ デミオ、日産 ノート、スズキ イグニス
4.8m トヨタ アクア、三菱 デリカD2、スズキ スイフト、メルセデス・ベンツ SLK
4.9m トヨタ カローラアクシオ、マツダ デミオ4WD、ホンダ フィット、VW ポロ、アウディ TT
5.0m アウディ A1、
5.1m トヨタ プリウス、BMW 1シリーズ、MINI、メルセデス・ベンツ Cクラス、
5.2m トヨタ CH-R/フリード/クラウン/マークX、VW ゴルフ
5.3m トヨタ ハリアー、ホンダ シビック、スバル インプレッサ、マツダ CX-3、日産 ジューク
5.4m トヨタ プリウスPHV、スバル BRZ、ホンダ ステップワゴン、スバル レヴォーグ、BMW 3シリーズ
5.5m トヨタ ヴォクシー、ホンダ シビックハッチバック、マツダ CX-5、日産 セレナ、ホンダ ヴェゼル、日産 ティアナ
最小回転半径5.0m以下の日産 マーチやトヨタ パッソなど、小回りが良いクルマとしてイメージしていた通りかもしれません。

逆に、日産 ジュークやスバル BRZは、最小回転半径がもっと小さくてもよいのでは?と感じるかも知れません。ボディサイズも比較的コンパクトで、きびきびと回りそうなイメージなのに、どうして最小回転半径が大きいのでしょうか?

その理由は、短いホイールベース、大きめのタイヤ切れ角、狭いトレッドが最小回転半径に有利に働くためで、このうちのいずれかでも条件から外れると、数値が悪化する原因となります。
たとえば最小回転半径が5.3mもあるジュークは、トレッド(1,525/1,525mm)も、ホイールベース(2,530mm)も、同サイズのなかでは平均的な値です。しかし、タイヤの外径(215/55R17)が668mmと大きいことが、数値に影響しています。

タイヤが転舵する際の様子を真上から見てみると、タイヤはキングピン軸を中心線として、回転する軌跡を描きます。その際、車両内側に干渉する車体(サイドメンバー等)があるため、内側へ侵入できるスペースが決まってしまい、タイヤの限界切れ角が決まります。

そのため、ステアリングラックにストッパーをつけて規制を行い、ステアリングを切れなくします。よって、ボディサイズとアンバランスな最小回転半径となってしまうのです。

また、コンパクトなスポーツカーの場合は、タイヤの幅が広いことで、車体内側への干渉が起きるため、切れ角規制をしています。もちろんタイヤが転舵できるようにトレッドを広げ、タイヤを車両外側寄りで転舵させることもできますが、ボディを広げるという大きな変更(投資)が必要となり、設計者としては避けたいと考えます。

同じ車種なのに、スポーツグレードだと最小回転半径が大きくなるのは、こういった理由があるのです。
意外に奥が深い最小回転半径。ボディサイズのわりに最小回転半径の小さな車にも、理由があります。理由を知ると、ちょっと興味が湧いてくるかもしれません。そこにはサスペンション設計者が、苦労して得た成果が出ているのですね。

ひとまず筆者は、Uターンをしないで済むように、普段から注意して運転しようと思います。

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