埋もれちゃいけない名車たち VOL.5 「前衛」と「熟成」CITROEN BX

アヘッド CITROEN BX

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フランスは実に興味深い。世界の流行の発信地のようなイメージを持ち、実際に最新モードのようなものに対して強烈なこだわりを持つ側面がある一方で、築100〜200年の住宅に修繕しながら住むのは当たり前だし、古いモノ、伝統と文化に対するリスペクトも強い。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.121 2012年12月号]
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「前衛」と「熟成」CITROEN BX
CITROEN BX

「前衛」と「熟成」CITROEN BX

〝アヴァンギャルド〟というフランス語を世界中に浸透させるほど大切にしてきてるのに、同時にその逆にある世界も限りなく大切にし続けているのだ。だから古いモノやコトを熟成させてつきあい続けるのも、自然の成り行きのようなもの。

自動車の分野でも同様で、思想的にも技術的にも地味ながら延々と受け継がれてきてるものが多々あって、実はそれこそが無視のできない〝味〟になっている。

代表例はシトロエンの〝ハイドロ〟サスペンションだろう。普通のクルマなら金属製のスプリングとショックアブソーバーの組み合わせとなるところを、窒素ガスによるエアスプリングに油圧シリンダーと油圧ポンプによるダンパーで構成した、独創的な機構である。

柔らかく角のない乗り心地を実現できるほか、荷重の変化に関わらず車高を一定に保つことができたり車高を調整できたり、油圧機構をパワステやブレーキサーボなどに同時に活用することができたり、とメリットは多いのだが、構造が複雑でコストも高く、様々な自動車メーカーがトライするも事実上断念してきている。

けれどシトロエンは、1955年にデビューしたDSから本格的に実用化を開始し、現在も仕組みを完全にコンピュータ制御して上級車種に採用し続けているのだ。

最新式の〝ハイドラクティブ〟サスは、どんな高級車にも負けない夢のような乗り心地を見せるが、電子制御が入る前の〝ハイドロニューマチック〟と呼ばれていた頃の乗り味が個性豊かでよかったと思う。

前後左右そして斜めにフワフワとした動きを見せ、波間にたゆたう船のような、あるいは魔法の絨毯のような限りなくソフトで浮遊感すら覚えるフィールは、ただそれだけで恍惚としそうなほどに心地よいからだ。

改良と熟成を繰り返した結果の現代のハイドロはその際の余分な動きを抑制し、快適性を保ったまま安定性を高めた極めて優れたサスペンションだが、〝余分な動き〟が生み出す何ともいえない味わい深さと癒しの妙を過去のものにしてしまっているのだ。

旧世代のハイドロの完成形的な乗り味を持つのが、1982年登場の『BX』。絶妙なパッケージングによる使い勝手の良さと適度なサイズであることも含め、実用車として最強の存在だった。

しかもランボルギーニ・カウンタックをデザインしたマルチェロ・ガンディーニによる前衛的にも思えるスタイリングには、よく見るとそれまでのシトロエンの特徴的な部分が巧みに隠されている。

前衛性、そして熟成の味。BXは最もシトロエンらしいシトロエンの1台として評価されるべき存在だと僕は強く思う。

CITROEN BX

1982年から93年にかけて生産されたミドルレンジ・シトロエンが『BX』。それまでのモデルと異なる直線基調のスタイリングだが、前衛的な印象とシトロエンの伝統的な雰囲気を併せ持っており、それがこのモデルの個性となっている。

搭載するエンジンそのものは何てことのない1.4〜1.9リッターだが、車体が軽かったために走りも悪くなく、ハイドロ・サスの熟成も進んだことから意外やコーナリングもハンドリングもスポーティだった。またパッケージングが絶妙で居住空間も荷室も広々、実用性も抜群に高かった。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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