埋もれちゃいけない名車たち VOL.10 もてる男の“ビーエム”「BMW 3シリーズ E30」

アヘッド BMW 3シリーズ E30

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いろんなものがいろんなカタチに狂ってたバブルの時代を通過してきた男性諸氏は、よく覚えておいでだろう。乗ってるクルマでハッキリと男としての値段が女性達の間で決められてしまった恐ろしい時代があったことを。より正確にいうならば、そういう側面は一部では間違いなくあったものの、むしろ値踏みされてるのではないかと戦々恐々としていた愛すべき弱い男達が無数に存在していた時代──。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.126 2013年5月号]
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VOL.10 もてる男の“ビーエム”「BMW 3シリーズ E30」
BMW 3シリーズ E30

VOL.10 もてる男の“ビーエム”「BMW 3シリーズ E30」

それまでは限られた層だけの特別なモノだった〝ガイシャ〟が、泡が膨れ上がる過程で次第に増殖し、いつしかメルセデスどころかフェラーリまでもが飛ぶように売れまくり、クルマは今以上に乗り手のステイタスをひけらかすためのモノでもあった。

その頃の主役の1台と呼べるのが、あの当時は〝六本木カローラ〟と呼ばれるほど繁華街でポピュラーな存在であり、今ではマニア達から〝E30〟と型式で語られてリスペクトすらされるBMWの2代目3シリーズだ。
 
〝ビーエムの3〟は、よくモテた。乗ってる男がではなくクルマが(と思いたい)。事実、僕にはこのクルマに目の前で意中の女の子を掻っ攫われた苦い想い出がある。

誘われ慣れしてた彼女が、後日「快適なの」「結構速いわよ」「助手席でも解るくらい気持ちいいの」と評してたのを聞いて「ちくしょー!」と感じたものだ。弱い男のひとりとしても、そして友達のスカイラインに乗っててあっさりぶっちぎられた経験から興味たっぷりだったのに、そこそこ高価ゆえ触れることが叶わなかったクルマ好きとしても。
 
だからというわけでもないが、今から10年少々前、僕はこのE30型の325iという4ドアセダンを短い間だが所有してみたことがある。いや、恨みを晴らしたかったわけじゃない。とっくにバブルは弾けてた。単に激安だったのだ。
 
いざ日々のアシとして使ってみると、僕はすっかり気に入ってしまった。5ナンバーサイズのコンパクトな車体に2・5リッター/170馬力のエンジン。ほどよく締ったアシに後輪駆動。シュルルルルと素晴らしく滑らかに、そして力強く吹け上がるエンジンと、抜群のハンドリングの組み合わせは、ちょっとばかりオタクの入ったクルマ好きを唸らせるほどの絶妙な楽しさと気持ちよさ。

ヒトには白状できないスピードでの巡航も楽にこなしてくれ、峠道ではスライド走行をも楽しめる、スポーツセダンとして一級のパフォーマンスを濃密に味わわせてくれた。BMWが何にこだわってクルマ作りをしてるのか一発で理解できたほど。
 
日本特有の出来事だけど、あの狂乱の時代に〝ビーエムの3〟の素晴らしさを正しく理解していたヒトがそれほど多くなかったことが残念で仕方ない。けれど、そうであるがゆえに日本でBMWが〝常に気になるクルマ〟として捉えられるようになったのも、また事実なのだ。

BMW 3シリーズ E30

BMWの2代目3シリーズは、1982年から1994年まで生産された、2ドアと4ドアのセダン。またそれをベースにしたカブリオレやステーションワゴンも存在する、その頃のBMWのボトムレンジでありながら主軸でもあったモデルだ。

日本の5ナンバー枠に収まるコンパクトなボディに、お家芸ともいえるストレート6エンジンを中心とした構成。325iは一部の特殊なモデルを除く最上級グレードだ。軽さとパワーによる速さとハンドリングの良さで世界的に人気を博した。ちなみに1990年当時の4ドア325iの新車価格は455万円だった。

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text : 嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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