本気になった三菱の野望

アヘッド PIKES PEAK 2013

※この記事には広告が含まれます

「単発ではなく継続する」という公約どおり、三菱自動車は今年もパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(6月24日〜30日)に出場する。標高2862mのスタート地点から4301mのゴール地点まで、156のタイトなコーナーをクリアしながら標高差1439mを駆け上がる過酷な競技だ。

text:世良耕太 写真提供・三菱自動車 [aheadアーカイブス vol.127 2013年6月号]
Chapter
本気になった三菱の野望

本気になった三菱の野望

3年ぶりのワークス活動となった昨年は、i-MiEVエボリューションを投入した。このクルマは同社の市販EV、i-MiEVの電動コンポーネントを利用しているのが特徴。

「量産部品が競技でどこまで通用するかに挑戦するのがテーマ」(開発担当者)だった。結果を求めなかったワケではなかったが、ライバルに比べて明らかに非力。それでもクラス2位の成績を残したのは、ポテンシャルを考えれば上出来だったろう。

MiEVエボリューションⅡを投入する今年は違う。参戦するのはEV(電気自動車)クラスであることに変わりはないが、クラス優勝どころか「総合優勝を狙う」と豪語する。昨年の記録は10分30秒850だった。

EVクラスのトップタイムは10分15秒380。総合優勝のタイムは9分46秒164だった。今年の目標タイムは9分30秒である。約1分ものタイム短縮が必要だが、どうやって実現するつもりなのだろうか。

量産のコンポーネントに近いという意味では昨年型と共通しているが、新型は既存のコンポーネントに手を加えるのではなく、将来のEVに生かす技術を先取りしているのが特徴だ。
昨年型は80‌kWのモーターを3基(前1基/後2基)搭載したが、新型は100kWにパワーアップしたモーターを前後に2基ずつ、合計4基搭載する。これなら出力面でライバルにひけをとらない。しかも、ランエボ譲りの車両運動統合制御システム、S|AWCなどの統合制御を複数盛り込み、運動性能の向上を図っている。

空力性能も大幅に向上させた。昨年型は量産i-MiEVの印象をあえて残したスタイルをしていたが、新型は性能を最優先。純レーシングカーと断言していい精悍なルックスに変貌した。ダウンフォース量は昨年型の4倍以上だという。

規則でスリックタイヤの装着が認められることになったため、タイヤの変更で20秒、パワートレーン系の改良で15秒、空力性能向上で10秒のタイムアップを見込む。あれ? 15秒足りない…。

「私の持ち分が15秒です」と語るのは、昨年に引き続きステアリングを握る増岡浩選手。ダカールラリー2連覇の名ドライバーは、コースの習熟によって15秒以上短縮してみせると自信を覗かせる。三菱はさらに、2輪車クラスで6度の優勝経験を持つグレッグ・トレーシー選手を起用した。

パイクスピークはドライバーの技量がタイムに大きく作用する。長年のラリー活動でドライバーの重要性を熟知した三菱ならではの判断だ。本気の三菱が見せる〝山登り〟に期待が高まる。

-----------------------------------
text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細