小沢コージのものくろメッセ その22 自動運転と原子力の不思議な類似性

アヘッド 小沢コージ

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今号の特集でも語ることになってしまったが昨年、なにが印象に残ったかって自動運転だ。新型プリウスやロードスターでも燃料電池車のトヨタMIRAIでもない。

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.158 2016年1月号]
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その22 自動運転と原子力の不思議な類似性

その22 自動運転と原子力の不思議な類似性

気になったのは技術的なことではない。技術的には2012年にスバルのアイサイト2が出て「ぶつからない」機能を現実のものとして見せてくれた時に、いずれにせよその手は出てくるだろうなと思っていた。

そもそも日本はもちろん海外のエンジニアもロボット的なものが大好き。実際、ホンダの「アシモ」開発者は「鉄腕アトムを作りたいんです」と言っていたのだ。

ある意味SFであり手塚治虫的ワールドの吸引力は物凄い。自動運転コンセプト自体は、おそらく数年前には楽勝で考える人がいた。ロボットもののSF小説を思いつくのと同じぐらい考えた人がいたはずだ。

そうではなく私が考える最大の問題は行政であり、法律であり、覚悟だと思っている。つまり「その導入リスクを社会がどう受け入れるか」だ。安全になる可能性はある。

だが、逆に新たな危険を生む可能性もある。少なくとも実際に会った自動運転担当エンジニアは「悪意のある事故は止められません」と言っていた。自動運転なり無人運転をしている車両があったとして、そこに人が故意に車両をぶつけた場合、避けることはできないということなのだ。

おそらく人は無邪気に自動運転に夢を描くだろう。それは人を運転という楽しみであり、苦労から解放し、自由な移動社会をもたらすという意味でだ。その意味ではエアバッグやアイサイト以上の破壊力だ。

つまり人が想像する「自動運転」と現実に出てくる「自動運転」は相当な乖離があるはずで、おそらく想像も出来ないメリットと同時にデメリットも生まれる。そしてその論議であり、問題は長く続くだろう。

原子力を思い起こして欲しい。あれは1970年の大阪万博の時には「夢の技術」と呼ばれていた。人に希望と平和をもたらすものだったのだ。そもそも鉄腕アトムの「アトム」は原子から名付けられた。CO2を出さない、化石燃料を使わないという意味では確かに夢だった。当初の問題も時間と技術が解決してくれるはずだったのだ。

ところがあれから46年。原子力の問題は解決していない。もちろんメリットは享受したし、一時は日本でもかなり依存したが、今ではほぼ休止の憂き目にあっている。

自動運転はこれからの普及と技術進化をみるしかないが、おそろしくメリットをもたらす可能性がある。移動で困っている地域は世界のどこにでもあるからだ。だが、逆に想像もできないデメリットを生む可能性もあり、その時に社会はどう反応するのか? これだけ危険を容認しない国、日本では両刃の剣になる可能性がある。

最大のポイントは100%安全を求めないことと、いかに責任の所在を正しく把握するか、だと個人的には思っている。どこか楽なところに責任を押しつけたままではおそらく正しく進化しない。どこに本質的原因があり、なにが問題で、今後どうすべきなのか。画期的新技術に対する正しい哲学であり、対処法。それを今後の日本はますます問われることになるに違いない。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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