小沢コージのものくろメッセ その23 テスラ・モデルSは本当に走るiPhoneなのか?

アヘッド 小沢コージ

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最近なにかと話題のカリフォルニアのEV(電気自動車)ベンチャー、テスラ・モーターズ。やれ去年はセダンのモデルSが、日産リーフを抜いて世界最多販売EVになったとか、今年は新型SUVのモデルXが日本に上陸しそうだとかネタは尽きず、せっかくなので小沢も新年自腹でサンフランシスコのテスラ本社工場に行くことにした。

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.159 2016年2月号]
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その23 テスラ・モデルSは本当に走るiPhoneなのか?

その23 テスラ・モデルSは本当に走るiPhoneなのか?

残念ながらモデルXには諸事情あって乗れなかったが、もう一つの話題である半自動運転のオートパイロットを試し、工場見学やスタッフインタビューを敢行した。その結果分かったことがある。それは日本人が考えるテスラ像と本当の自動車ベンチャー、テスラの実像とのイメージのズレだ。

例えば今、世界的に売れているモデルS。あれは「走るiPhone」だとか「画期的EV」などと言われ、今までにない新しい乗り物のように言われているが、テスラはそんなことは全く考えていない。彼らは単純に「現在作れる最良の高級セダン」というコンセプトに基づいてあれを作っている。

例えば排ガスを出さない特性は、単純に「他のセダンより優れている性能」と捉えており、そのほか速さ、広さにしろ確かに従来のセダン以上。モーターの巨大トルクを生かし、加速性能はスーパーカーと変わりなく、エンジンを持たないがゆえに室内スペースも驚くほど広い。なにしろモデルSは3列シート仕様も選べるのだから。

そう、モデルSは従来に全くない画期的乗り物というよりも、単純に全面的に優れた次世代の高級セダンなのだ。その結果、見事にアメリカではメルセデスやBMWの市場を奪っており狙いは的中している。

そして現実にテスラの存在に焦っているのは、既存の自動車メーカー、つまりアウディであり、ポルシェだ。例えば去年のフランクフルトショーでポルシェが出したEVコンセプト、ポルシェ・ミッションE。あれはポルシェがモデルSの性能や人気の高さに焦ったゆえに作られたと言われている。それほどモデルSの売れ行きは驚異的であり、インパクトがあるのだ。

思うに、日本人はベンチャー企業に対して過剰な夢を描きがちだ。アニメやSFの世界の如く、今までにない創造性100%の革命であるかのように捉えてしまう。ところが現実のベンチャーはより現実的で残酷だ。

アップルのiPhoneは確かに革命的だったが、同時に既存の携帯電話を駆逐し、日本の家電メーカーを確実に不況の淵に追いやった。テスラ・モデルSはまだそのレベルまで行ってはいないが、既存の高級車市場を食い荒らし、デザインは露骨に既存の高級セダンをターゲットにしている。

そのほか米ベンチャーのウーバー・テクノロジーズが生み出した画期的配車アプリのウーバーもまた次々と既存のタクシー会社を死に追いやっている。そう、ベンチャーの本質とは、新技術の本質とは実は殺し合いなのである。

新しい力が生まれると同時に、旧態依然とした力は死に追いやられる。それは当たり前であり、力と力の勝負なのだ。そう考えると日本から真のベンチャーが生まれにくい理由が分かる。日本は力と力の勝負を好まない。WinWinを望むからだ。そういう姿勢は世界では稀なのである。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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