小沢コージのものくろメッセ その25 “クルマ昔話”はカッコ悪いのか

アヘッド 小沢コージ

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不肖小沢、突如〝究極の業界問題〟にブチ当たってしまった。それはクルマ昔話はカッコいいのか? 悪いのか? だ。きっかけは去年からネット界ほかを騒がせている、タレント高田純次さんの名言。「歳とってやっちゃいけないことは、説教と昔話と自慢話。だから俺はエロ話しかできないんだよ」

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.161 2016年4月号]
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その25 “クルマ昔話”はカッコ悪いのか

その25 “クルマ昔話”はカッコ悪いのか

この言葉にガツーンと衝撃を受けた50歳前後の年配予備軍は多いはず。実際につい説教と昔話と自慢話をしかけている自分に気づくからだ。

しかも話し始めた時の若い奴らの気の抜けた表情ったらない。「いったいどこの国の話ですか?」「何語ですか?」的ムード。自分が冷ややかに見られている現実が悲しい。

しかし、振り返ってみるとクルマ業界は全く逆。それどころか基本「昔話を知っていればいるほど偉い」という不文律が長らく存在している。

分かり易い話がクラシックカー界だ。この世界を語る上で、1954年のメルセデス・ベンツ300SLを知らない人間はモグリだし、901型、930型、964型と続く歴代ポルシェ911やそれ以前のポルシェ356なんか基本中のキ。

フェラーリもスーパーカー世代の512BBやら365GT4BBは序の口で、ヒストリックカーオークションで最高値を付ける60年代の250シリーズのエレガント過ぎるカタチを知らないなんてあり得ないし、戦前から始まるロールスロイス&ベントレーや、アメリカ車だってコルベットにキャデラックにカマロにマスタングにタッカーと歴史あるクルマは山ほどあるし、日本車だってプリンス・スカイライン、同グロリア、ハコスカGT-Rのほかトヨタ2000GT、ヨタハチ、いすゞ117クーペと名車は腐るほどある。その上、セナやらヌヴォラーリやら当時のレーサーや名シーンネタもありクルマの世界は「昔話」こそが宝なのだ。

もちろん冷静に考えると、そんなことを知っている層は日本ではひと握りで、言わばアートであり、骨董品の世界。学芸員がレオナルド・ダ・ヴィンチからミケランジェロからルーベンスからフェルメールからモネからピカソなどを網羅して芸術性と知識をベースに語り合うようなもので、実際は現役の自動車雑誌編集者でも一部を除いてロクにしらない。

先日驚いたのは最近の編集者は古いハチロクは知っていても、いすゞピアッツアや日産ガゼールやトヨタ・セラは知らないことで、なるほど彼らの生活において古い話は全然関係ないのだ。

が、ことクルマに限って言うと全く知らないのは悲しすぎる。世界の超高額ヒストリックカーはともかくカローラ、サニー、ファミリア、ミニカ、スバル360、シビックなどなど日本車の歴史は大衆車の歴史であり、それは日本の宝物なのだ。

特別昔を自慢したいんじゃないし、昔は良かったと説教したいわけじゃない。だが、今後、韓国車や中国車が伸びてきたとして、「アジアのクルマを作って来たのは日本」だと知っていて欲しいのだ。

1966年にカローラが生まれ、1955年にクラウンが生まれたことを誇って欲しいのだ。高田純次さん、確かに昔話はカッコ悪いかもしれない。でも自慢ではなく知っておくべき古い話はあると思うんです。いかがでしょうか?

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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