埋もれちゃいけない名車たち vol.62 “わかっている人”のスポーツカー「フェラーリ・モンディアル シリーズ」

アヘッド フェラーリ・モンディアル シリーズ

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〝スーパーカーを乗り回すのは幼児性の表れ〟なんて言い放った知人がいた。賛成する気にはなれないが、まぁ何となく、言いたいことは解る。実用性に欠ける派手なカッコをしたスーパーカーという存在を、自己顕示性や承認欲求の強さの表れと見て、子供っぽいと感じていたのだろう。そんなクルマばかりでもないのにな、と思う。とても大人っぽいスーパーカーというのだって存在する。フェラーリ・モンディアル・シリーズなど、その筆頭である。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.178 2017年9月号]
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vol.62 “わかっている人”のスポーツカー「フェラーリ・モンディアル シリーズ」

vol.62 “わかっている人”のスポーツカー「フェラーリ・モンディアル シリーズ」

フェラーリは昔から今に至るまで、スピードとレーシングカーライクなテイストを追い求めるようなバリバリのスポーツカーと並行して、スポーツ心を持つ裕福な人のためのゴージャスなグランツーリスモを用意し続けてきた。

必死にペダルを踏みつけたりすることは滅多にないが、アシとして使いながら心地好さは味わいたいし、アシだからある程度の実用性は欲しい、というような需要が常に一定以上あるからだ。それらの多くは、小さいながらもリアシートを持つ2+2であることが多かった。モンディアルはそんな中の1台だ。

1980年のジュネーヴショーでデビューしたモンディアルは、ミドシップ+2シーターの308GTB/GTSの4シーター版として位置づけられ、車体の基本的なストラクチャーも同じように作られていた。

実際には2+2の範疇であるが、先代といえる308GT4よりもホイールベースが10cm長く、その分リアシートは拡大されており、リアエンドに独立したトランクが設けられるなど、実用性も向上していた。

が、いかんせん地味だった。ウェッジシェイプデザインが施され、リトラクタブルヘッドランプも持っていたのに、華々しさに欠けていた。

そしてGTB/GTSと較べると、動力性能的にも見劣りした。同じV8DOHCを積みながら、0-100km/h加速で1秒以上遅かったのだ。当初の215psだったパワーはシリーズ最後期には300psへまで引き上げられていたが、その地味で鈍重なイメージは最後までついてまわった。

実際にはホイールベースが長い分、GTB/GTSより直進性もよかったし、後輪を滑らせたときのコントロール性も良かったのだが、その事実もあまり知られていない。

その抑制の効いた穏やかな雰囲気を愛する人も確かに存在する。が、1993年に生産中止され今やネオクラシックの領域に入っているというのに、他のモデル達のように見直されたりすることもなく、多くのフェラーリ・ファンから意識されることもない。

けれど、逆に地味色系のボディカラーをしたモンディアルを平然とした顔で乗りこなしてる人がいたら、僕はカッコイイと思うのだ。なぜなら、様々な意味で〝解ってる人〟だけができるチョイスだから。

フェラーリ・モンディアル シリーズ

モンディアル・シリーズは、ディーノ308GT4の後継として1980年に発表された2+2のミドシップスポーツカーだ。

1982年にモンディアル・クワトロバルボーレ、1985年にモンディアル3.2、1989年にモンディアルTと発展、途中の1983年以降はカブリオレも追加されているが、大掛かりなモデルチェンジを受けることなく1993年まで生産された。

ロングセラーだったのは販売が好調だったからではなく、ラインアップ構成上必要と考えられていたからに他ならない。ただしフェラーリはモンディアルの生産中止以降、2+2はフロントにV12を搭載したモデルに集約させている。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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