埋もれちゃいけない名車たち vol.57 “ブチ回して走る” エキサイティングなイタ車「フィアット・チンクエチェント」

アヘッド フィアット・チンクエチェント

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クルマの持つポテンシャルを自分の技量で目一杯引き出しながら〝攻めて〟走る──。スポーツ・ドライビングは楽しい。でも、大抵のスポーツカーは高価だし、今やとても日常的にそのパフォーマンスを堪能するなんて色んな意味で無理があるくらいに高性能、速すぎる。ここはかなり葛藤するところでもあるのだ。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.173 2017年4月号]

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vol.57 “ブチ回して走る” エキサイティングなイタ車「フィアット・チンクエチェント」
フィアット・チンクエチェント

vol.57 “ブチ回して走る” エキサイティングなイタ車「フィアット・チンクエチェント」

ここで「スイッチ!」してみよう。僕の頭の中に瞬時に1台のクルマが浮かんできた。フィアット・チンクエチェント、だ。

いや、あの歴史的なヌォーヴァ500や現行版500ではなく、その狭間にあり、昔のダイハツ・ミラみたいな姿で、正規輸入がなかったわりにはそこそこの数が上陸し、けれど忘れられようとしている〝四角いチンク〟である。

1991年にデビューした〝四角いチンク〟は、欧州における小型車のボトムエンドを担う戦略車として企画されたモデルだ。その中期以降に〝スポルティング〟と呼ばれるスポーツ・グレードが存在した。

3.3mたらずの全長に1.5mたらずの全幅という軽自動車並みの小さな車体。800㎏を軽々下回る車重。1.1リッターのよく回るSOHエンジン。それはもう目が醒めるほどに〝遅い〟クルマだった。

何せたったの55‌ps。手動5段のトランスミッションはトップギアだけ巡航用で1〜4速はクロースしたレシオ。高回転域までブチ回し、そこをキープするようギアを忙しく切り替えて走ってやらないといけない。

古典的なラテン車のドライビング・スタイルである〝ブチ回して走る〟をイヤでも強いられるわけだ。けど、何か楽しい。

ホイールベースが短いから安全策としてシャシーはアンダーステア気味のセッティングだけど、しっかりフロント・タイヤに荷重を乗せてステアリングを切ると、クルンとシャープにターンが決まる。めんどくさいけど、何か楽しい。

感覚を研ぎ澄ませ、手足をせわしなく動かして、物凄く頑張って走っても、ちっとも大したことないぐらいに遅い。それなのにめちゃめちゃエキサイティングで、めちゃめちゃ楽しい。笑い出しちゃうくらいに楽しいのだ。

スポーツ・ドライビングの醍醐味って何だ?スピード?確かに無視できない要素である。でも突き詰めて考えると、重要なのは〝絶対スピード〟ではなく〝スピード感〟だということに気づく。

そしてそれを自分で引き出し、制御していると実感させる〝操縦感覚〟だ、ということにも。そのツボを、この〝四角いチンク〟はしっかり押さえていた。

馬力絶対主義を否定する気はない。それはそれで惹かれるものがある。けれど、ドライビングの楽しさを日常的に堪能するなら、こういうクルマを相棒にする方がいい。ただ、少なくなったなぁ、こういうツボだけギュッと押さえた安価なクルマ……。

フィアット・チンクエチェント

チンクエチェントは1991年から1998年にかけて作られた、欧州のボトムエンド征服を狙った簡素なモデル。車名は最初のイタリアの国民車的存在となったヌォーヴァ500にあやかったものだが“500”という数字はどこにもなく、“Cinquecento”と綴られる。

フィアットはこのクルマをベースにしたエントリー・ユーザー向けのワンメイク・ラリー用マシンをアバルトに開発させ、そのエッセンスを市販モデルに振り掛けたようなスポーツ・グレード“スポルティング”を1994年からラインアップさせた。非力だが若者がドライビングを鍛えるのに最適なマシンだった。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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