目指せ!カントリージェントルマン VOL.12 今しかできないこと

アヘッド 目指せ!カントリージェントルマン VOL.12 今しかできないこと

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森に暮らしていれば、ある程度受け身にならざるを得ないことは多い。春になれば雑草たちは勢いづき、否応なしに菜園を耕すタイミングもやってくる。梅雨が迫れば庭に残っている原木を切り割って薪棚に収めてしまおうという決心も勝手に固まるものだ。僕があまり外出しないのは出不精だからではなく、日々の雑事で手いっぱいだからなのである。

text/photo:吉田拓生 [aheadアーカイブス vol.188 2018年7月号]
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VOL.12 今しかできないこと

VOL.12 今しかできないこと

そんなある日、MGBの車検が迫ってきたので馴染みのメンテナンスガレージを訪ねた。イギリスのヒストリックカーを専門に扱うメカニックのKさんとは20年以上の付き合いがあり、気心も知れている。たまに訪ねると、近況報告からはじめるのが通例である。

するとKさんが「見てみて、また生命保険解約しちゃった!」と言って書類を見せてくれた。これまでも海外のヒストリックフォーミュラカーのレースに出る資金作りのため、いくつかあった生命保険を解約していたというKさんだが、いよいよ今回が最後の保険だという。

Kさんはアラフィフで結婚もしている。しかもフォーミュラカーのレースはハコ車のレースよりも危ない。一般的に言ったら、アタマノオカシイヒトである。
だがKさんがそんな話をするのは、僕がそういう世間ずれしたアクションに理解があると思っているからだろう。実際に、やめた方が……というお節介より、純粋な羨ましさの方がはるかに大きい。

Kさんは言う。「今しかできないことってあるからね」全く、激しく同感である。近年は平均寿命よりも健康寿命が重視される世の中になっている。体調を壊して医者に掛かりっきりになり、好きなことを思うようにできなくなるタイミングまでが“人生を楽しめる時間”というわけだ。

だが40代の半ばになってみると、実際にはその前にもいくつか段階があることがわかってくる。体力の衰えと回復の遅さ、それに比例して気持ちも衰える。30代の頃と比べると「エイッ、やったれ!」となる機会も確実に減る。例え健康であっても、60代にできることと40代にできることは違うのである。
しかも以前から海外のフォーミュラカー・レースに参戦しているKさんは、海外に多くの友人とネットワークを持っている。ヒストリックカーのゴールデンエイジと言われる'60年代のモーターレーシングに関わり、現在は高齢になっている彼らと直に触れ合い、本場のレースシーンを肌で感じようと思ったら、10年後では遅い。自分の体のタイミングもあるけれど、時代の流れも無視できない。

「今しかできないことってあるからね」

果たして、今の自分にとってそれは何だろうか? 大雨によって度々詰まり、氾濫してしまうドブの浸透枡の中を掃除しておくこと。週に一度家の周りの雑草を刈ること。腐ってきたデッキを作り直すこと。朝収穫しないと、夕方には大きくなり過ぎているキュウリとズッキーニに気を配ること。ネットのお陰で2日に1度くらいの割合で締め切りが来るようになった原稿書きをこなすこと……。

でもこれって40代半ばの今だからではなく、今やらなきゃいけない雑事のリストじゃないか? 大事なのは追われることをこなすのではなく、自分の意志で追い求め達成することでは?

仕事オンリーでいい歳になってしまったサラリーマンが趣味を探しているみたいで格好悪いけれど、僕は今しかできないことを今探さなくてはならない。

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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。
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