EVオヤジの未来予想図 VOL.10 震災から生まれたEVの電力供給

アヘッド EVオヤジの未来予想図

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5月17日。風薫るお台場を後に、EVスーパーセブンで東北巡礼の旅に出る。

text:舘内 端 [aheadアーカイブス vol.187 2018年6月号]
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VOL.10 震災から生まれたEVの電力供給

VOL.10 震災から生まれたEVの電力供給

さて、5年前の2013年。「急速充電器の設置数が足りないのでEVは普及しない」という都市伝説に腹が立ったわたしは、「だったら急速充電器だけで充電して日本を1周してやろう」と思い、一念発起してEVスーパーセブンを作り、旅に出た。たった161ヵ所で急速充電しただけで、8000㎞余を走って日本を1周できたのであった。

ちなみに当時の急速充電器の設置数は2000ヵ所、普通充電器は7000基であった。

だが、東日本大地震から3年。私がEVスーパーセブンのドライバーを務めた三陸海岸は、八戸市から松島、そして宮城県と、まだ津波の爪痕が残り、凄惨な姿を残していた。

津波に流され亡くなった人、その家族、家を、職場を流された人たち。私はいつの日か、再び三陸を訪れ、少しばかりの元気を届け、亡くなられた方々を鎮魂し、冥福を祈らなければならないと思った。

しかし、実際となると日々の仕事に忙殺され、思いはなかなか果たせずにいた。芭蕉が旅の無事を祈った道祖神さまは、そんな私に憑りつき、再びEVスーパーセブンに乗って東北の旅に出かけるよう促したに違いない。

話は2011年3月の東日本大震災に戻る。地震からしばらくすると東京・神奈川に(おそらく何の根拠もなく)「強制停電」が起きた。4階建ての事務所の屋上から見る東京は真っ暗であった。

そんな折、神奈川のEVオーナーから哀しいメールが届いた。駐車場に駐車した愛車のi-MiEVのフロントガラスに「こんなときに電気自動車に乗るとは….」と書かれた張り紙が貼られていたとのことであった。

一方、i-MiEVとリーフは東北で大活躍していた。三菱自動車と日産から合わせて180台近くが東北に送り込まれたのである。震災に遭った地域は、系統電力網が断たれ、夜になると真っ暗で自分の指先さえ見えず、まだ冬支度の福島の風の吹く避難場所で、TVも点かず、温かい飲み物も食べ物もない夜を幾日か耐えなければならなかった。

震災から数日後、電力網が回復したころに、i-MiEVとリーフが届いた。一方、それまで活躍してきた内燃機関自動車は使えなくなっていた。被災地への道路が地震と原発からの放射性物質の拡散で寸断され、タンクローリーが走れなくなり、GSへの給油が途絶えたからだ。

そこからEVの活躍が始まった。ガソリンが底を尽き走れなくなった被災地を、EVが走り回った。そして今回の「給電の旅」の原点になった事件が起きた。

避難物資を避難場所であった宮城県亘理郡の山元町立坂本中学校にi-MiEVで配達していた三菱自動車本社の担当員が、避難していた婦人から、「あなた。その電気自動車には電気が溜まっているのでしょ。だったらそれを使えるように外に出してよ」と声をかけられたのだった。

やがて三菱本社に戻った担当者は、益子 修社長に直訴した。そうして生まれたのが「MiEV powor BOX」であった。急速充電口につなげば、1500WのAC100Vの電気が取り出せ、家電が使える。これがあれば、被災者はあの暗くて、寒くて、不安な夜を過ごすことはなかったのである。

災害帝国ニッポンは、南海トラフ、東京直下の大地震に見舞われることが確実だと言われている。さらに、確実なのは地球温暖化による洪水と土石流である。

そうしたとき、EVはCO2排出量がゼロであるばかりか、被災地の人々の役に立つ乗り物となる。個人の欲望の対象と見られてきた自家用車も、公共的な乗り物になれることを、旅では被災者の鎮魂と共にアピールしようと思う。

旅では、EVスーパーセブンとアウトランダーPHEVから電力を取り出し、その電気でご飯を炊き、コーヒーを淹れ、おかずを作り、BBQを楽しむEVキャンプを各地で行う。LEDのスポットライトで夜空を照らし、PAでレクイエムを流し、亡くなった方を鎮魂しようと思う。

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text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
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