EVオヤジの未来予想図 VOL.8 脱化石エネルギー大戦

アヘッド EVオヤジの未来予想図

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現在に続くガソリン自動車は、1886年にカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーによって発明された。

text:舘内 端 [aheadアーカイブス vol.185 2018年4月号]
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VOL.8 脱化石エネルギー大戦

VOL.8 脱化石エネルギー大戦

それから100年。盛大な自動車誕生記念祭がシュツットガルトで開催された。招待を受けた私はダークスーツに身を包み、会場を訪れた。すると、世界各国から招かれた要人が次から次へと入場してきた。圧巻は歴代のメルセデスのレースカーに乗ったレーシングドライバーたちだった。自動車100年の壮大な歴史のページェントであった。

誕生から100年。それは自動車が石油と共に世界を圧倒した世紀であった。いまさらだが、自動車は世界の経済を押し上げ、世界の街の姿を変え、人々の生活を変え、誕生前の世界とはまったく違う世界を造り上げた。その先頭にいたのがダイムラーだった。

だが、その記念祭から25年でダイムラーは新しい宣言をする。石油との決別である。2011年のフランクフルト・モーターショーは、ダイムラーとベンツが自動車を発明してから125年にあたった。この記念すべき年のモーターショーでダイムラーは、F125というコンセプトカーを展示した。

Fは、Futureつまり「未来」を示す。F125は、自動車誕生から125年でダイムラーが示した自動車の未来の姿だ。そして、ディーター・ツェッチェ社長は、「これまでの125年の自動車の歴史を我々は内燃機関でリードしてきた。これからの125年。我々は脱石油で自動車をリードする」と宣言したのだった。それを示すかのようにF125は水素をエネルギーとする燃料電池車であった。ただし、未来の自動車は燃料電池車かというと、多くの人が疑問を投げかけている。私もそうだ。

それはともかく、2011年からたった6年。2017年のフランクフルト・モーターショーにはダイムラーの指摘した通り、燃料電池車ではなかったが、脱石油カーのEVが乱立した。

脱石油を宣言したのは自動車だけではなかった。イギリスとフランスが2040年以降の新型のエンジン車の販売を禁止すると決定。さらにパリは2024年のオリンピックには市内へのディーゼル車の流入を禁止すると決定した。政府や地方自治体も脱石油を宣言したのである。

そればかりかデンマークのように脱化石エネルギーを掲げ始めた国もある。化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換である。これはなんだ?

これはエネルギー転換なのだ。産業革命を根底から支え、米国を初めとする世界の宗主国を生んだ石油を中心とした化石エネルギーからの転換なのである。これに乗り遅れれば、宗主国への道は閉ざされる。世界の覇者になることが不可能になるだけではなく、21世紀の植民地にならざるをえない。

もちろん、その背景にあるのは地球温暖化問題である。パリに集まった世界の国が地球温暖化を防止するためにC02を削減することを誓った。それはまさに世界の脱化石エネルギー宣言だ。乗り遅れれば、その国に未来はない。それは、産業革命に遅れまいと明治維新を起こした日本と他のアジアの国々の違いを見れば一目瞭然だろう。

再エネを基盤とした新しい産業革命がいま起こりつつある。化石エネルギーを使うシステムは、もう古く、生き残れない。自動車の脱石油化は、その一つに過ぎない。さらに言えば、脱化石エネルギー化世界大戦の始まりである。勝って世界の覇者になるか。負けて植民地になるか。

「まだ、エンジン車はありますよ。安心して下さい」って、そういうことではないし、だったら安心できないってことなのだ。

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text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
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