Letter From Mom 夫と子どもとクルマたち Vol.13 人生5個目のヘルメットは…

アヘッド Letter From Mom

※この記事には広告が含まれます

初めてレースというものに参戦した日から、もうすぐ20年になる。師匠に教わったことのひとつが、ヘルメットやレーシングスーツなど装備品を選ぶときの心得だ。ちゃんと自分の身体のサイズに合うもの、多少高価でも信頼できるものを選べ。なぜなら、これは命を賭けるスポーツなのだから。そう何度も念を押された。

text:まるも亜希子 [aheadアーカイブス vol.185 2018年4月号]
Chapter
Vol.13 人生5個目のヘルメットは…

Vol.13 人生5個目のヘルメットは…

7着ほど手にしたレーシングスーツは、身体のあちこちを採寸したデータをもとに、オーダーメイドで縫製してもらったものばかり。絶対に太れないというプレッシャーもあるけれど、ジッパーを首まで上げたときのピシッとする感じは、いい緊張感をくれたものだった。

けれどヘルメットは高価すぎてオーダーメイドというわけにはいかず、ようやく満足できたのは4個目のヘルメット。カラーリングも自分でデザインして塗ってもらい、眺めていると走りたくなってしまうほどのお気に入りだ。

そんな私のもとに、人生5個目のヘルメットがやってきた。初めての2輪用である。私は2輪免許を持っていないので、これは乗せてもらうとき専用だ。夫はずっと前から、私をバイクの後ろに乗せたいと言ってヘルメットを物色していて、ショップで何個か試着もしてみた。

でもやっぱり、ちょうどいいサイズが見つからない。実は10年以上前に、友人のバイクの後ろに乗ってあまりの辛さとつまらなさに懲りていた私は、これであきらめてくれるかなとホッとしていたのだった。

ところが夫はあきらめていなかった。ついにヘルメット用スペーサーなるものを発見し、それを内側に装着すればサイズが合うはずだという。ほかにも、知らないうちにシートを2人乗り用に交換したり、落下防止用のバーを買ったり、着々と準備をしているらしい。もうすぐ桜の時期だし、バイクでお花見をしようなんて言われて、私もとうとうその気になった。

夫の目論見どおり、ヘルメットのサイズはぴったり。娘を義母に預けて、いつも見送っていた夫のバイクに自分も乗るというのは、ちょっと不思議な気分だ。ブルルルルと振動がじかに伝わるお尻は痛かったけれど、足全体を風が通り抜けていく感覚や、時おりフワッと熱気を浴びる感覚はバイクならでは。周りの景色との隔たりがなく、空がとても広く感じる。おかしいな、これならちっとも辛くない。

記憶を辿ると、友人の後ろに乗ったときは「これでいっか」と軽い気持ちで4輪用ヘルメットを被っていた。2輪用に比べて視界が狭いから周囲はよく見えないし、形もゴツくて重いから頭をあまり動かすこともできない。もしかして、あんなに辛くてつまらなかったのはヘルメットのせいだったのだろうか。そんな疑いを持つくらい、ぜんぜんちがう。

桜のトンネルを走り抜けたとき、私は思わず「わぁ、きれい!」と叫んでいた。こんなに特別なお花見席があったなんて……。初めての2輪用ヘルメットは、私に思いもよらない幸せを運んできてくれたのだった。

--------------------------------------------------
text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細