埋もれちゃいけない名車たち VOL.3 生粋のマイクロスポーツカー「HONDA BEAT」

アヘッド ホンダ ビート

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バブル景気の勢いを借りて開発された、贅沢な成り立ちのマイクロ・スポーツカーが勢揃いしていた時代があった。1991年とその翌年に相次いでデビューを飾った、後年になって〝ABC〟と呼ばれる3台がそれである。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.119 2012年10月号]
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VOL.3 生粋のマイクロスポーツカー「HONDA BEAT」

VOL.3 生粋のマイクロスポーツカー「HONDA BEAT」

AZ-1(オートザム=マツダ)、BEAT(ホンダ)、CAPPUCCINO(カプチーノ/スズキ)のそれぞれの頭文字を取った呼び方だけど、この3台、何が〝贅沢〟だったかといえば、別のモデルのプラットフォームをそのまま使ったりするのではなく、シャシーもボディもそれ専用に開発するという、今の時代にはエンジニア達が望んでもなかなか許されない手間とコストの掛け方がなされていたのだ。

中でもデビューが最も早かったビートは印象的だった。量産車としては、当時、フェラーリやランボルギーニすら手をつけていなかったミドシップ・フルオープン・モノコックのボディを採用、サスペンションは4輪独立懸架、ブレーキも軽自動車初の4輪ディスクなどなど、〝本格的〟なんていう言葉で片付けたら申し訳ないくらいの本気印だったのだ。

しかもそのスタイリングは、軽自動車の枠内でよくぞここまで流麗に仕上げたものだ! と感動するほどの美しさ。ピニンファリーナが1枚噛んでいたという説もあって、今に至るまでホンダもピニンも否定していないから、全く無関係ではなかったんじゃないか? と思う。

発表の時点でただひとつ残念だと思ったのはエンジンで、E07A型という型式から軽トラのアクティのエンジンを流用してるのが判ったこと。

後に実際にステアリングを握ってみて「あー、俺は馬鹿だった」と先走った知ったかぶりを反省することになるのだけど、確かにアクティとベースは同じながら、ホンダがそんな眠いことをするわけもなく、直列3気筒のSOHC4バルブ656㏄は、独立3連スロットル等から成るMTRECと呼ばれる吸気システムなどによって、自然吸気ながら軽自動車の自主規制である64馬力に達していたのだ。しかも最高出力は8100回転、最大トルクは7000回転で発揮するという結構な高回転型。

走らせてみると、これがたいして速くない。ターボで稼いだAZ─1やカプチーノと較べると明らかに不利。なのに妙に愉しいのだ。回さないと走ってくれないから、気分としてはどこでも全開。

その爽快感! 安全性を考えたアンダーステアな性格だけど、荷重移動を上手く利用してやれば驚くくらいの運動性能を見せてくれる。そのときの気持ちよさ! スポーツカーは得られるスピードよりも得られる気持ちよさ、愉しさこそが大切なんだ、ということを全身で教えてくれるかのような、そんな貴重なクルマだった。

つい先日、そのビートの後継となる軽自動車のオープンスポーツカーを2014年に発売する、とホンダの社長が明らかにした。ビートの〝魂〟がどんなカタチで受け継がれるのか、とても楽しみだ。

HONDA BEAT

ビートは本田技研が1991年5月に発表・発売した軽自動車のスポーツカー。それまでの軽自動車に投入する技術とコストの概念を大きく超えたところで開発され、構造や成り立ちは凝りに凝っていた。

そのため新車価格は当時にして138万円と高価だったが、一説によればビートの原価は100万円近くもかかっていたとか。初年度はそれなりに販売も好調だったが、ライバル達の登場やバブルの崩壊などの影響を受けて次第に苦しくなり、1996年1月に生産終了。現在でもマニア達に大切に乗り続けれている個体が多い。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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