W12気筒を搭載するベンテイガの最上級モデル ベントレー ベンテイガ スピード このSUVはまさに狂気の毒

ベントレー・ベンテイガ・スピード

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昨年末、三代目フライングスパーとともに国内初お披露目されたベントレー・ベンテイガの最上級・最高性能バージョン「ベンテイガ・スピード」。当代最上級のスーパーSUVのさらにスーパーな一台を、じっくり走らせるチャンスが到来した。

文・武田公実/写真・PBKK

武田 公実|たけだ ひろみ

かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッドで営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、クラシックカー専門店などで勤務ののち、自動車ライターおよびイタリア語翻訳者として活動。また「東京コンクール・デレガンス」、「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントにも参画したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム」ではキュレーションを担当している。

武田 公実
Chapter
世界最速の量産SUV
エクステリアに"ブラックスペック"を纏うと、ダークヒーロー感が漂う
コントロールが可能な狂気

世界最速の量産SUV

2015年秋のフランクフルト・ショーにてワールドプレミアに供されたベントレー・ベンテイガは、ここ数年1万台越えの年間販売台数を計上し続けているベントレー大躍進の立役者。デビュー前から、ハイエンドのSUVに果たしてどれだけの需要があるのか?と疑問視する向きもあったようだが、ふたを開けてみれば大成功。日本国内マーケットにおいても、V8ツインターボ/W12ツインターボとも高い人気を獲得している。そんなベントレー・ベンテイガの頂点に立つことになったのが「ベンテイガ・スピード」である。

名門ベントレーにとって「スピード」は、実に97年もの歴史を持つ称号。開祖たるW.O.ベントレー時代の第一作として1921年に正式販売された「3 Litre」に、デビュー二年後となる23年から追加されたハイパワー版「スピードモデル」がその元祖である。そののち6.6リッター6気筒24バルブユニットを搭載する「6¹/₂Litre」にも高性能版「スピードシックス」が設定され、1929-30年にはル・マン24時間レースの優勝マシンともなっている。
ベントレー ミュルザンヌ
そして、ベントレーにとっては名跡とも言うべき「スピード」が復活したのは、2007年のこと。初代「コンチネンタルGT」高性能版としての登場だった。その後は「フライングスパー(初代のみ)」にも設定。さらに現代ベントレーの旗艦にして、このほど勇退がアナウンスされてしまったミュルザンヌにも、特別中の特別なモデルとして用意されてきたのだ。

これら現代に蘇った「スピード」は、チューンを高めたパワーユニットと少しだけハード志向に振ったサスペンション・セットが与えられたモデル。その方程式は、新生ベンテイガ・スピードにも適用されている。

従来のベンテイガ12気筒モデルは、最高出力608ps、最大トルク900Nmを発生する6リッターW12ツインターボエンジンを搭載。8速ATとの組み合わせで最高速度は301km/hをマークする。一方V8版に搭載されるのは、4リッターのツインターボ。排気量シリンダー数ともにW12の3分の1ということで最高出力550psに抑えられるものの、最高速度は290km/hに到達するという、こちらもなかなかの怪物である。
しかしベンテイガ・スピードは、当然のことながら一枚上手となる。エンジンは、W12ツインターボをさらにスープアップ。最高出力は、27ps引き上げられて635psとなった。最大トルクは900Nmで変わらないながらも、これまでよりも広い回転域でピークトルクを発生するという。この結果、ベンテイガ・スピードの最高速度は5km/h伸びて306km/hに到達。同じフォルクスワーゲン/アウディ・グループに属する身内で、最高速度305km/hを標榜するランボルギーニ・ウルスの誕生によって譲位を余儀なくされた「世界最速量産SUV」の座に返り咲くことになったのだ。

エクステリアに"ブラックスペック"を纏うと、ダークヒーロー感が漂う

「世界最速のSUV」の称号を再び奪取したというベンテイガ・スピードだが、雨の東京都心を舞台とした、しかも短時間のテストドライブでは、これまでのベンテイガたちとのパフォーマンスの違いを実感するのは、けっこう難しいこととも言える。
まずはエクステリアを見ると、スピード専用となる色調を落としたダークティント仕立てのラジエーター/バンパーグリルや、同じく暗めな色調とされる専用の22インチホイールなどが、「Azure Purple」と名づけられた紫色のボディとの組み合わせによって、ちょっと露悪的な雰囲気を匂わせる。

特に今回の試乗車は、外装のクロームメッキをすべてグロスブラックで仕立てたオプション仕様「ブラックスペック」であることも相まって、ベンテイガとその係累に共通する「ダークヒーロー感」がことさらに強調されるようにも見える。
一方インテリアの本革レザーハイドは、メイン色がブラックでリネンの差し色。カーボンファイバーの杉綾模様も併せて、こちらもダークヒーロー的に映る。そして、アピアランスを支配するこのダークな雰囲気が、ダイナミックな走りのテイストとも実にマッチしているかに感じられる。

コントロールが可能な狂気

W12版はもちろんのこと、V8版でも空恐ろしいほどのパワーを持つベンテイガではあるが、今回ステアリングを委ねていただいた「スピード」においても、これまでのベンテイガが身上としてきた、極めて高いレベルでの洗練ぶりはそのまま残されている。

でも、例えばスロットルを深めに踏み込んだ際に明確に聴こえてくるW12ツインターボユニットのエキゾーストサウンドや加速感は、さらに強烈なもの。専用チューンのサスがもたらす、巨大なはずの車体が一回りも二回りも小さく感じられてしまうシュアなハンドリングにも、ベンテイガ・スピードならではスポーティな切れ味が与えられている。
もちろん、これまでのベンテイガW12と同様に充分な安全マージンが取られ、正真正銘の「アンダー・コントロール」であることは言うまでもない。しかしベンテイガ・スピードでは、その先にホンの少しだけの異空間。誤解を恐れずに言うならば、「狂気の毒」のごとき背徳的愉悦の片鱗が、チラリと見えるのだ。

これは、ベントレー伝統の「スピード」だけに許された世界。日本への正規導入は限定20台のみで、既にその枠は残り数台となってしまったというベンテイガ・スピードは、まさに「高貴なるバーバリアン」ベントレーの真骨頂というべきスーパーSUVと言えるだろう。どうやら、このクルマの乗り手に何より求められるのは「理性」と「自制心」のようである。
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