F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.45 影響大の8速固定化

アヘッド F1Kota Sera

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2014年のF1は、2006年以来使いつづけてきた2.4ℓ・V8自然吸気エンジンから、1.6ℓ・V6直噴ターボエンジンに載せ替える。乗用車で流行する過給ダウンサイジングの流れを取り入れたわけだが、変更点はそれだけではない。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.134 2014年1月号]
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Vol.45 影響大の8速固定化

Vol.45 影響大の8速固定化

▶︎エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせた パワーユニットを供給するメーカーは、フェラーリ、メルセデス・ベンツ、ルノーの3社。フェラーリとメルセデスのワークスチーム以外は、3社いずれかからパワーユニットを購入することになる。ギアボックスはパワーユニットとセットで 購入してもいいし、独自開発してもいい。いずれにしても、中堅チーム以下にとっては多大な出費。2014年に限り、シーズン中1回だけギア比の見直しが認められている。


運動エネルギー回生システムと熱エネルギー回生システムという、2種類のハイブリッドシステムを搭載し、エンジンと合わせて統合制御する必要が出てきた。レースで使用できる燃料は100㎏に制限されるので、3〜4割燃費を向上させないと、走り切ることすらできない。

こうしたパワーユニットの変更点ばかりが注目を集めているが、目立たないけれどもパワーユニットを開発するうえで大きな影響を与えそうな変更点もある。

ギアボックスだ。F1のギアボックスは変速段が最大「7速」に定められていた。これが、2014年からは8速になる。乗用車のトランスミッション(F1のギアボックスと同じ意味。F1では慣例的にギアボックスの表現を使う)は多段化の傾向にある。

自動変速機の場合、長らく4速が主流の時代がつづき、5速が出てきて、6速になった。と思ったら8速になり、現在の最多段は9速である。

狙いは燃費の向上だ。段数を多くすれば、高速で走っているときのエンジン回転数を低く抑えることができる。例えば、同じ速度でも5速では3000rpmだったのに、8速にしたら1800rpmになるといった具合。低い回転数で走ることができれば、燃料の消費が抑えられ燃費が向上するという論法だ。

F1の8速化も同じ考えかというと、そうではない。コストの低減が狙いだ。乗用車の場合ギアを組み替えることなどしないが、F1はコースの特性に合わせてギアを入れ替えることが認められていた。

300㎞/hしか出ないモナコで330㎞/hまで出るモンツァ用の7速ギアは合わないから、モナコに適した7速と入れ替える。速度の伸びない7速に合わせて低いギア段も調整するといった具合。

2013年までは30種類のギアの中から、コースの特性に合った7種類を選び出し、最適なセットを組むことができた。ところが、2014年からは8速固定になる。複数のギアを設計し、製造するコストを抑える発想。1段増やしたのは、7速では何かと困ることもあるだろうからという温情だ。

30あった選択肢が8になるのだから、悩ましいことに変わりはない。タイプの異なるサーキットすべてに合うセットなど存在しないはずで、妥協を強いられる。パワーユニットの制御にも影響を与えるだろうし、コースによって「当たる」チームと「外す」チームが出てきそうだ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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