F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 vol.50 消えた大音量サウンド

アヘッド F1

※この記事には広告が含まれます

F1が「音」に揺れている。「うるさいから静かにしろ」と騒がれているのではない。「静かすぎて迫力に欠けるので、もっと大きくできないか」と議論されているのだ。どうしてこんな事態になったのだろう。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.139 2014年6月号]
Chapter
vol.50 消えた大音量サウンド

vol.50 消えた大音量サウンド

▶︎昨年までは大音量の排気音にマスクされていたタイヤのスキール音がはっきり聞こえるほど、と表現すれば、静かさの度合いが想像できるだろうか。第5戦スペインGP後に同地で行われた合同テストでは、メルセデスAMGがテールパイプにメガホン(テール部がラッパ状に広がっているだけ)を取り付けて、音量増大効果を確かめた。だが、さしたる効果は認められず。音の小ささはエンジンの効率の高さを示す代表的な事象としてアピールするはずだったのだが、あまりの不評に対応を迫られているのが実状だ。


'13年までのF1は2.4ℓ・V8自然吸気エンジンを積んでいたが、'14年は1.6ℓ・V6直噴ターボを積むことになった。それだけでは音、すなわち排気音が小さくなった理由を説明するには不十分だ。

'13年までは燃料の使用量に制限はなかったが、'14年からは100㎏のガソリンで約305㎞のレース距離を走らなければならなくなった。ただ走るだけなら燃費走行に徹すればよく、さしたる問題にならない。

だが、競争に勝つには、3割以上も燃費を向上させたうえで、速く走る必要がある。速く走るには出力を高めなければならないが、新しい規則は燃料の総量だけでなく流量も規制されており、「瞬間的にたくさん燃やして高出力を得る」という、原始的かつストレートな手法をとることができないのだ。

ではどうするかというと、エンジンの効率をひたすら高めるしかない。1滴のガソリンが持つエネルギー量は決まっている。そのエネルギーを無駄なく、F1マシンが前に進む力に変換するのだ。ターボチャージャーも、エンジンの効率を高めるエネルギー変換装置の一種という考えだ。

そうしてエンジンの効率を高めていくと、無駄が減る。エンジンが発する音も一種のエネルギーなので、エンジンの効率が高まって無駄が減ると、排気音は小さくなる。つまり、エンジンの効率を高めれば高めるほど、音は小さくなっていくものなのだ。逆に言えば、音の小ささは「エンジンの効率が高い」ことを意味する。F1が取り組み始めた技術開発が、新しいステージに踏み出した証拠でもあるのだ。

だが、理屈と気持ちは別ということなのだろう。効率の高さを象徴するはずの小さな排気音が不評なのだ。'13年までのF1を象徴していたのは、1万8000rpmの高回転エンジンが奏でる甲高く官能的で、鼓膜を圧するようなサウンドだった。

'14年のエンジンの場合、燃焼室から漏れる排気音が小さくなっているうえに、ターボチャージャーでさらにエネルギーを吸収されるので、テールパイプから出てくる音は極めておとなしい。最高回転数の上限は1万5000rpmに定められているけれども、効率重視の現れでどのエンジンも1万2000rpmほどまでしか回していない。回転数が低いので甲高くはない。といって、迫力のある野太さにも欠ける。

F1はかつてのような大音量の高回転サウンドでなければ、魅力を失ってしまうのだろうか。みなさんはどう思います?

------------------------------------
text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細