おしゃべりなクルマたち Vol.98 コトの多いヒト

Vol.98 コトの多いヒト

アヘッド コトの多いヒト

今では自分はコトが多いことを自覚しているが、コトの多いヒトはさらにうわ手のコトの多いヒトを呼ぶ、これも自覚している。コト多い自慢コンテストがあったら優勝できそうな人間が私の周りにはいっぱい。そのひとりが今尾直樹。本誌で楽しい連載を始めた彼は、私が自動車雑誌に勤務していた時代の同期の友。

彼のコトの多さは自動車絡みのケースが多い。それはイマオが自動車を書くことを稼業としているためにクルマと過ごす時間が多いためとも言えるが、いや、そうではないと思う。彼の人生はクルマと楽しい出来事が起きるように作られているのだ。私はイマオの話を聞くたび、コトが多いのも悪くないなとしみじみ思う。

もっとも好きなのは昔、山の中をひとりセリカで走っていた時の出来事。原因は忘れてしまったが、セリカが自走不可能の事態に陥る。まだ携帯電話のない時代だったから彼は通りがかりのクルマに乗せてもらって山を下り、電話を探そうと考えた。

が、平日の昼間のことで通行量が少ない上に、通るクルマに手を振っても誰も止まってくれない。「お兄ちゃーん、元気でねえ〜」と手を振り返す運転手がいたという下りで、その仕草に早、爆笑。

ようやく止まってくれたのは、米軍基地の黒人兵士が“山ほど”乗ったクルマで、音楽をラジカセでガンガンかける車内で兵士たちに歌をうたえだの、踊れだの言われ、“それをいちいち、やる自分”と戦いながら彼は山を降りる。黒人兵の膝に座らされた日本男児が天井に頭をぶつけないよう、首を斜めに倒して踊り歌う姿にまた爆笑。

私はこの話が大好きで、何度も聞いているのに彼に会うたび、「アレ、話して、話して」とせがむ。笑わせようという意図があるわけでもなく、困っている自分を強調する様子もなく、淡々と出来事を描写するのが可笑しいのである。

先日、YouTubeを見ていたらチーム・ナックスの安田 顕が、何度も聞いた大泉 洋の高校時代の話をしてくれと、本人にせがむシーンがあったが、まったく同じで笑ってしまった。

いつだったか、作家の矢作俊彦氏とイマオと私の三人で食事をしているときに、私が矢作さんにもあの話、聞かせてあげてと頼んだら、彼がしぶしぶ、そんな調子で語ったが、めったに笑わない矢作さんが爆笑したあと、こう言った。

「イマオ君、キミが書くために、神様が色んな“コト”をいっぱい恵んでくれてるんだよ。コトというのは“物語”だから」。

私は自動車の性能よりクルマが生み出す物語に惹かれる。それで今尾直樹の連載をとても楽しみしているのである。

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text : 松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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