F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.28 チームの垣根を越えて

アヘッド Vol.28 チームの垣根を越えて

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予兆はあった。2011年シーズンのコンストラクターズチャンピオンシップを12チーム中の9位で終えたウィリアムズは、2012年シーズンに入ると見違えるような速さを見せつけた。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.116 2012年7月号]
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Vol.28 チームの垣根を越えて

Vol.28 チームの垣根を越えて

▶︎上位が脱落した結果転がり込んだ勝利ではなく、マルドナドとウィリアムズは実力で優勝をもぎとり、車椅子の闘将フランク・ウィリアムズの70歳のバースデーレースに華を添えた。この記念撮影が行われた直後、ガレージから火の手が上がりムードは一変。ライバルチームが手を貸したこともあり、大事に至らずに済んだ。写真・Williams F1 Team


チームで2年目のシーズンを迎えるベネズエラ人ドライバーのP・マルドナドが、開幕戦オーストラリアGPで予選8番手の好位置を得ると、決勝レースでは中盤以降6番手を走り、前を走るフェラーリのF・アロンソに迫ったのだ。マルドナドがアロンソを料理するのは時間の問題に思えた。最終ラップ、マルドナドはリヤを滑らせたのをきっかけにクラッシュしてしまったが、ウィリアムズの復調ぶりをアピールするには十分だった。

そして第5戦スペインGP。2つ前のレースで8位入賞を果たしていたマルドナドは、最速タイムを記録したL・ハミルトン(マクラーレン)が規定違反により予選結果から除外されるハプニングに助けられはしたものの、見事にポールポジションを獲得した。

レースでは、好スタートを決めたアロンソに抜かれて一時2番手となったが、ピット戦略で抜き返した。終盤、アロンソの執拗なプレッシャーを受けたが動じることなくゴール。開幕戦の借りを返した。

ウィリアムズは1975年の初参戦以来、113回の優勝と9回のコンストラクターズチャンピオンを獲得した超名門チームだが、マルドナドが成し遂げたスペインGPでの優勝は、2004年ブラジルGP以来、実に8シーズンぶりの快挙だった。

チーム創設者のフランク・ウィリアムズはスペインGPの直前に70歳の誕生日を迎えた。これを祝い、パドックではお祝いの行事が開かれたが、マルドナドの優勝はその祝賀ムードに華を添えることになった。

ただし、災難に見舞われるまでは。レース後、ガレージの裏手に集まったスタッフに対し、ウィリアムズがねぎらいの言葉をかけているところだった。パーティション1枚隔てたガレージで突然火の手が上がった。原因は究明中だが、給油機のガソリンを運搬用の容器に移し替える作業中、静電気が原因で着火したものと推察されている。

マルドナドは応援に駆けつけていた12歳のいとこを背負って逃げた。ウィリアムズのメカニック1名がやけどの治療のため入院することになったが、重傷者は出さず、火は消し止められた。火事の発生を知った他チームのスタッフが、チームの垣根を越えて消火活動にあたったのが早期鎮火に結びついた。

援助はスペインを離れてからも続いた。数日後には次の開催地であるモナコに出向かなければならなかったが、IT機器や無線機など、ガレージに備え付けてあった機材が損傷を受けたため、ウィリアムズは急ぎ代替品を調達する必要があった。マクラーレンをはじめ、苦境を知った複数のチームが支援を申し出たという。

ウィリアムズの優勝と火事をめぐる一連の出来事は、F1チーム間の強い連帯意識を感じさせる。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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