F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.30 ルノー。勝機は「他と違う発想」

アヘッド vol.30 ルノー。勝機は「他と違う発想」

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ルノーが元気だ。エンジンだけでなくシャシーの開発も手がけ、チーム運営も行うワークスチームとしての活動は2010年いっぱいで終了したが、2011年以降はエンジンをチームに供給するコンストラクターとして再出発を切った。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.118 2012年9月号]
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Vol.30 ルノー。勝機は「他と違う発想」

Vol.30 ルノー。勝機は「他と違う発想」

▶︎ルノーは、今期、エンジンサプライヤーとして、レッドブル・レーシング、ロータス、ウィリアムズ、チーム・ケータハム(写真の下から)にエンジンを供給。第4戦バーレーンでは、1、2、3、4位をルノーエンジンが独占した。(写真提供 ルノー・ジャポン)


一見するとトーンダウンした格好だが、なかなかどうして気合い十分だ。ファクトリーチーム(=最重要のクライアント)に位置づけるレッドブルは2010年、2011年とチャンピオンを獲得。

さらに、ロータスやケーターハムにも信頼性の高い2.4ℓ・V8自然吸気エンジンを供給する。2012年からはウィリアムズがパートナーに加わった。1990年代に黄金期を築いたコンビの15シーズンぶりの復活である。昨年まで低迷していたウィリアムズが急に勢いを取り戻した(第5戦スペインで8シーズンぶりに優勝)のは、実力のあるルノーエンジンを手に入れた効果が大きい。

パワーだけに焦点を当ててライバルと比較してみると、必ずしもルノーが卓越しているわけではない。そのことを裏付けるように、ルノーエンジンの開発・製造を行うルノー・スポールF1の幹部は、「フェラーリやコスワースとは同じレベルだと思いますが、メルセデスに比べて20馬力は劣っているでしょう」と、非力であることを素直に認めた。

だが、勝機があって非力に甘んじているのである。パワーが速さに直結したのは過去の話だ。おもしろいことに、1970年代後半から'80年代中盤にかけて、パワーを最優先した開発に取り組んで一時代を築いたのはルノーだった。ターボをF1に持ち込み、パワー競争を巻き起こした。F1でターボというとホンダのイメージが強いが、先鞭を付けたのはルノーだった。

吸排気バルブのリターンにコイルスプリングではなく圧搾空気(ニューマチック)を持ち込んだのもルノーである。ルノーの技術者たちには「自分たちはF1に革新的な技術を持ち込むパイオニア」との自負がある。

パワーを重視しない開発姿勢は技術面で革新的ではないけれども、発想としては大胆で「人と違う取り組みに意義を認める」彼ららしいアプローチだ。パワーを重視せずに何を重視するかといえば、燃費とドライバビリティだ。

ライバルより5%燃料消費が少なければ、スタート時に搭載する燃料は7.5kg少なくて済む。車重が軽いとそのぶんサーキットを周回するには有利で、7.5kgの違いは約0.2秒のアドバンテージになる。

ドライバビリティは、アクセルペダルを踏んだ際のレスポンスと言い換えてもいい。これが優れていると、コーナーの立ち上がりで相手を出し抜いたり、追っ手から逃れたりするのに有利だ。パワーは一番ではなくてもルノーが一番なのにはそこに理由がある。

人と違う発想がルノーの持ち味。F1のエンジンは2014年に1.6ℓ・V6直噴ターボに切り替わるが、ひと味違うアプローチで開発しているはずである。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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