19億円の真実。ロールス・ロイス「スウェプテイル」徹底解説

スウェプテイル

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スウェプテイルは、2017年にロールス・ロイスが発表した1台限定のコーチビルド(完全受注生産)モデルです。その価格は報道時点で1,300万ドル(約14億5千万円)とされ、当時の市販車世界最高額となりました。為替変動を踏まえると現時点では約19億円に相当するとも言われています。

価格がこれほど高額になった要因は、一台限りのワンオフ製作であることに加え、既存モデルの流用ではなく専用設計のボディと内装をフルスクラッチで作り上げた点にあります。加えて約4年を要した手作業による開発・製造や、極上素材の多用も価格に跳ね返っており、結果として発表時点で「14億円超え」の桁違いの金額を記録しました。

CARPRIME編集部

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Chapter
価格の謎:1300万ドルという数字が示すもの
ワンオフ製作 (One-Off) という絶対的希少性
フルスクラッチの専用設計
4年という長期にわたる開発・製造
購入への道:選ばれし者のみに開かれる扉
製造の背景:コーチビルドの伝統と技術の結晶
デザインとスペックの解剖:データで見るその姿
主なスペック
話題性・オーナー情報
競合モデル・今後の展開

価格の謎:1300万ドルという数字が示すもの

スウェプテイルは「世界で最も高額な新車」として話題になりました。発表当時、その価値は1,300万ドル(当時のレートで約14億5千万円)と報じられ、市販される新車として世界最高額の記録を更新。

現在の為替レートで再計算すると、その価値は約19億円にも相当すると言われています。では、なぜこれほど桁外れの価格が設定されたのでしょうか?その背景には、極めて論理的かつ高コストな3つの要因が存在します。

ワンオフ製作 (One-Off) という絶対的希少性

スウェプテイルは、特定の顧客のためだけにデザイン・製造された、文字通り「世界に一台」の車です。同じものは二度と作られることはなく、その絶対的な希少性が価格に反映されています。

フルスクラッチの専用設計

コストを抑える手法として一般的な既存モデルのパーツ流用は、この車においてはほぼ行われていません。ベースとなったのは当時の「ファントム・クーペ」のプラットフォームですが、ボディパネルや内装は完全に新設計。

いわば、骨格の上にまったく新しい建築物をゼロから建てるに等しい、膨大なコストと技術が投入されました。

4年という長期にわたる開発・製造

顧客からの着想が生まれた2013年から、完成お披露目となった2017年まで、実に約4年の歳月が費やされています。これは、デザイナー、エンジニア、そして熟練の職人たちが、手作業で丹念に一台を仕上げるために必要とした時間であり、そのすべてがコストとして積み上げられているのです。

購入への道:選ばれし者のみに開かれる扉

では、このスウェプテイルのような車を手に入れるには、どうすれば良いのでしょうか。その方法は、通常の自動車購入のプロセスとは全く異なります。

スウェプテイルは、ロールス・ロイスが提供する究極のパーソナライゼーションプログラム「ビスポーク」の中でも、頂点に位置する「コーチビルド」という枠組みで生み出されました。これは、事実上、ロールス・ロイスがその顧客のビジョンとブランドへの理解度を認めた、ごく一部の人物のみが参加できる招待制のデザイン・コラボレーションです。

公式な価格や販売台数は設定されておらず、購入を希望する場合は正規ディーラーを通じてビスポーク担当者と対話を重ねる必要があります。つまり、それは「車を買う」という行為ではなく、ロールス・ロイスというブランドと共に「唯一無二の作品を創造する」というプロジェクトに参加することを意味します。

製造の背景:コーチビルドの伝統と技術の結晶

スウェプテイルはロールス・ロイス伝統のコーチビルド技術を極限まで発揮した一台です。構想開始から完成まで4年間を要し、2017年5月のイタリア・コモ湖畔ヴィラ・デステで開催された「コンコルソ・デレガンツァ」で華々しくお披露目されました。

米社長トルステン・ミュラー=オットヴォス氏は同公開時、「スウェプテイルは真に傑出したクルマであり…ロールス・ロイスのコーチビルドの最高峰だ」とコメントしています。

本車は当時のファントム・クーペのシャシーをベースにしていますが、外板・内装は完全に新設計です。ロールス・ロイスと顧客は複数年にわたり構想を練り、伝統的な手作業で車体を仕上げました。

結果、前述の実寸データ(全長5,285×全幅1,947×全高1,502mm、ホイールベース3,112mm)を持つ2ドアクーペが誕生しています。

このプロジェクトの成功は、ロールス・ロイスにとって大きな転機となりました。2021年にはコーチビルド部門を正式に常設化し、その後の「ボートテイル」「ドロップテイル」といった新たなワンオフモデル開発へと繋がっていくのです。
  • 製作期間:顧客からの要望を受けて2013年頃から設計を開始。完成まで4年を費やし、2017年5月に公開。
  • ベース車両:ファントム・クーペのプラットフォーム・パワートレイン(6.8L V12)を活用。
  • ボディ/内装:1920-30年代のロールス・ロイスにインスパイアされた完全新設計の2ドアクーペボディと、比類なき贅を尽くした専用内装を職人が手作り。

デザインとスペックの解剖:データで見るその姿

スウェプテイルは外観・内装ともに極めて豪華で個性的です。外装デザインは、1920年代の「スウィープトテイル」スタイルを現代流に再解釈しており、以下の特徴があります。

  • フロントまわり:巨大なパントニオングリルはソリッドアルミ鍛造で削り出され、手作業で鏡面仕上げされました。丸型ヘッドライトと合わせ、クラシックなロールス顔を強調しています。
  • ルーフ&リア:前方から後方にかけて滑らかに流れるロングノーズ/ショートテールのプロポーションを持ち、上面は大きなパノラマガラスルーフで覆われています。ガラスルーフ越しに室内に自然光が注ぎ、リアエンドは海をイメージした斜め切り落とし形状(スウィープト・テイル)となっています。車体にはほとんど段差や継ぎ目がなく、一枚の彫刻のような滑らかな曲面が続くのも特筆点です。
  • インテリア:室内は水平基調の2シーター。ポリッシュド・マカサルエボニー材やオープンポア(無垢)パルダオ材、ダークスパイスのレザーを贅沢に組み合わせた色使いで、質感とコントラストを演出しています。センターコンソール内蔵の冷蔵シャンパーニュチェラーやクリスタル製グラスホルダーなど、顧客の好みに応じた豪華装備も備わります。

主なスペック

その優雅で巨大なボンネットの下には、ロールス・ロイスの伝統を象徴するV型12気筒エンジンが静かに鎮座しています。排気量6.75リッターにも達し、最高出力は約338kW(460PS)、最大トルクは531Nmという、圧倒的でありながらも余裕に満ちたパワーを発生させます。

この強大な力は、極めて滑らかな変速を実現する8速オートマチックトランスミッションを介して後輪へと伝えられ(FR駆動)、シルクのように滑らかで静粛な走りを生み出します。

ボディサイズは、全長5,285mm、全幅1,947mm、全高1,502mmと、路上で比類なき存在感を放つ堂々たる体躯を誇ります。車両重量も約2,560kgとヘビー級ですが、そのパフォーマンスは見た目の優雅さからは想像もつかないほど俊敏です。

停止状態から時速100kmまで、この巨体をわずか約4.9秒で加速させる性能は、多くのスポーツカーに匹敵します。そして、最高速度はメーカー公表値で約250km/hに達し、スウェプテイルが単なる芸術品ではなく、圧倒的な動力性能を秘めた超高性能クーペであることを証明しています。

話題性・オーナー情報

スウェプテイルは発表当初から世界中の自動車メディアで注目を浴びましたが、オーナー名は公式に明かされていません。関係者は「ロールス・ロイスおよび海外メディアは所有者を公表していない」と伝えています。

一方でSNSや報道からの推測では、香港の不動産王サミュエル・タク・リー(李德義)氏の一人息子、サム・リー(Lee Tak-Yee)氏がオーナーではないかと噂されています。実際、複数の情報源が「Sam Liはタク・リー氏の息子」と明記しており、ロールス・ロイス好みの富裕層でヨットや航空機のコレクターとしても知られる同氏の可能性が指摘されています。

ただし公式発表がない以上、オーナーについては「公表不能な極秘事項」という扱いです。

競合モデル・今後の展開

スウェプテイルに代表される超高額ワンオフ車の動きは他社にも広がっています。

  • ロールス・ロイス ボートテイル
2021年発表の3台限定ワンオフシリーズ。シーポートをモチーフにした4人乗りオープントップで、価格は約31億2000万円と報じられました。スウェプテイルと同様に顧客の要望から生まれ、固定部門化したコーチビルドで製作されています。

  • ブガッティ ラ・ヴォワチュール・ノワール
2019年発表の1台限定モデルで、約17億4800万円とも言われました。アトランティックの復刻デザインを特徴とし、一時「世界で最も高価な市販車」として話題になりました。

  • ベントレー『マリナー』、フェラーリ『ワンオフプログラム』
高級ブランド各社が顧客向けカスタムプログラムを展開しています。たとえばベントレーは個別仕様のコーチビルド「Bacalar」(12台限定)を手掛け、フェラーリは著名顧客向けに完全特注のボディを制作しています。


また、ロールス・ロイス自身もコーチビルドモデルを続々と投入しています。

2023年には4台限定のコーチビルド・ロードスター「ドロップテイル (Droptail)」を発表し、顧客のイニシアチブによるオープンカー4台を公開しました。同社は「今後もオーナーの要望に応える形で完全独自のワンオフモデルを積極展開する」と明言しており、今後も超富裕層向けの特注ビスポークカーが注目され続ける見込みです。

以上のように、スウェプテイルは価格面でも技術面でも突出しており、その存在自体が高級車のコーチビルド需要に影響を与えています。将来的には今後もロールス・ロイスや他ブランドによる次世代モデルが現れ、「世界最高峰の一台」を巡る競争は続くでしょう。
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