高級車では復活しつつある4WS…なぜ量販車には4WSが採用されなくなったのか?

R31 スカイライン

※この記事には広告が含まれます

かつてさまざまな乗用車に設定された「4WS(四輪操舵)」。低速での小回りと高速時の安定性を両立させる装備として一時流行しましたが、今はほとんど高級車専用装備となっているのはなぜでしょう?
Chapter
世界初の4WS車は日産のR31スカイライン
軽自動車にも採用された4WS
「パッシブ4WS」ニシボリック・サスペンション
実は高級車では復権の傾向
電子制御の陰で廃れゆく量販車用4WS

世界初の4WS車は日産のR31スカイライン

世界で初めて量産乗用車に4WSが採用されたのは、1985年デビューのR31スカイラインに搭載された「HICAS」(リアアクティブステア)です。

基本的に高速走行時の安定性を高める目的での同位相制御(前後輪を同じ方向に操舵する)のみで、低速時の逆位相制御(前輪と逆に操舵する)は組み込まれていませんでしたが、後にR32スカイライン、Z32フェアレディZなどに採用した「スーパーHICAS」では一瞬のみ逆位相に操舵する事で、低中速時の操舵レスポンスを向上させていました。

その後、1987年にはホンダやマツダもそれぞれ開発中だった4WS車「ホンダ・プレリュード(3代目)」「マツダ・カペラ(5代目)」をデビューさせましたが、それらには最初から低速時の逆位相制御が組み込まれていたのです。

同時期の1987年10月には初のフルタイム4WD+4WS車として「三菱・ギャラン(6代目」が登場し、1987年という年は4WSの当たり年になりました。

軽自動車にも採用された4WS

そのような中で、わずか1車種、1グレードのみですが、軽自動車にも4WS車が存在します。ダイハツのL200系「ミラ(3代目)」の中の1グレード、L220S型「TR4(マイナーチェンジ後はTR-XXアヴァンツァート4WS)」がそれです。

軽自動車ながらも同位相制御、逆位相制御にも対応した本格的な4WS車でしたが、高価だった事や元々取り回しのいい軽自動車でのメリットが少ない事、取り回しで劣る4WD車には設定が無かった事もあって一代限りで終わり、その後軽自動車に4WSは登場していません。

「パッシブ4WS」ニシボリック・サスペンション

4WSの話題で忘れてはならないのがいすゞの「ニシボリック・サスペンション」です。

簡単に言えば、リアサスペンション前後で横に通されたラテラルリンクの位置やブッシュの硬さを工夫する事で、コーナリング時に路面からの入力に対してサスペンションの動きから「同位相」「逆位相」を実現してしまうものでした。

他社の4WDは能動的に操作する「アクティブ4WS」が多かったのに対し、いすゞの「ニシボリック・サス」は受動的に動く「パッシブ4WS」で、特に制御や可動させるための機構を持たないシンプルなもので、似たような仕組みは日産やマツダでも採用されていましたが、大々的に宣伝したのはいすゞくらいのものでした。

3代目(いすゞ製としては最終型)のJT760ジェミニのFFモデルに採用されましたが、熟成不足のまま投入されたので市場での評価は「違和感」の一言であり、ラリーなどで活躍していたにも関わらず、走りを求めるユーザーほどニシボリック・サスをキャンセルする必要に駆られてしまうという、乗用車メーカーとしては末期のいすゞを象徴するようなメカニズムになってしまったのです。

もっとも、似たようなパッシブ4WSであるマツダの「ナチュラル4WS」などにも同じような話はありましたが、「ニシボリック・サス」の場合は大々的な宣伝が、かえって仇となってしまったのでした。

実は高級車では復権の傾向

現在も生産されている乗用車の4WSは、ほとんどが高級車やスーパーカーのものとなっています。

現行モデルでは国産車では日産の「4輪アクティブステア」がY51型フーガ/シーマ、同型OEMの三菱プラウディア/ディグニティと、CV36スカイライン・クーペに、レクサスが「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリング・システム)」を現行GSやISに採用中。

海外の車でもBMWの「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」が7シリーズに採用されており、最近ではポルシェが991型からGT3とターボ車に「アクティブリアホイールステアリング」を採用するなど、むしろ高級車やスーパーカーでは4WSが復活傾向です。

しかし、日産はそれまで4輪アクティブステアを採用していたスカイライン・セダン2014年にV37へモデルチェンジした際に、ハイブリッド車に「DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)」を採用しました。

これは安全装置として従来のステアリングシャフトも残しつつ、ステアリング操作を電気信号で伝達するステア・バイ・ワイヤ機構で、この採用と同時にスカイライン・セダン全車から4輪アクティブステアを廃止しています。

理由としては「DAS」と4輪アクティブステアのマッチングに難があったためとも言われますが、今後スカイライン・クーペやフーガ系のモデルチェンジなどで「DAS」の採用があった時に、同じ事が起きるのか、あるいは「DAS」とのマッチングを克服して復活するのかはわかりません。

電子制御の陰で廃れゆく量販車用4WS

1990年代も後半になると、後輪操舵以外の方法で安定性や旋回性能の向上を果たす技術が登場します。

1996年にホンダが5代目プレリュードに搭載した「ATTS(アクティブトルクトランスファーシステム)」と、同年に三菱がランサーエヴォリューションIVに採用した「AYC(アクティブヨーコントロール)」がそれで、それぞれFF用だったり4WD用だったりしましたが、電子制御による駆動力配分で高速コーナリング時の安定性や、タイトコーナーでの旋回性能の向上を目指したものでした。

さらにABSトラクションコントロール、エンジンやミッションなど統合した電子制御による「半自動運転」が進んでくると、機械的な可動部分が存在するためにデザインやレイアウトが制約され、製造やメンテナンスにコストのかかる量産乗用車向けアクティブ4WSは廃れていきます。

最初の項でも説明した通り、現在4WSを採用しているのはほぼ高級車やスーパーカーです。それ以外の乗用車では機械的重量や高コストというデメリットを上回るほどの燃費改善機構として見直す日が来ない限りは、なかなか復活の機会は無いのかもしれません。
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細