忘れられないこの1台 vol.64 ルノー・ルーテシア 1.2 クイックシフト5

アヘッド ルノー・ルーテシア 1.2 クイックシフト5

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本誌で仕事を始めたとき、私はペーパードライバーだった。そればかりか、ハッチバックとセダンの違いもろくに分からぬずぶの素人。それでも、偶然出会ったこの雑誌に魅力を感じていたので、「興味さえ持てれば大丈夫」という当時の編集長の言葉だけを頼りに、編集部に入ったのだった。

text:ahead編集長・若林葉子 [aheadアーカイブス vol.142 2014年9月号]
Chapter
vol.64 ルノー・ルーテシア 1.2 クイックシフト5

vol.64 ルノー・ルーテシア 1.2 クイックシフト5

▶︎2006年にドライブレッスンの企画で、富士SWのショートコースを走ったときの写真。隣は先生である丸山 浩さん。


最初にしたのは、クルマを買うこと。運転もできないのだから、クルマの善し悪しが分かるはずもない。好き嫌いの基準があるはずもない。

たまたま出掛けたルノーの試乗会で、広報の方が試乗車そっちのけで、「ルーテシア」がいかに楽しいクルマかを力説するのを聞き、深く考えもせずに購入を決めた。納車は、運転のできない私に代わって、友人がディーラーから家まで運んでくれた。

その日から約5年乗ったのだが、このクルマの良さを本当に分かるようになるまでには3年はかかったのではないかと思う。普通のAT車などに比べてやや癖があり、最小回転半径も大きく、初心者の私は手こずった。

一度は本気で手放そうと思ったくらいだ。クルマからすると「おまえ、もうちょっと上手く運転しろよ」と言いたかったに違いない。

しかしある日の会社帰りの深夜、ふいにルーテシアの伸びの良いエンジン音が最高に気持ちいい、と感じている自分に気がついた。私の周囲のバイク乗りはみんな、このルーテシアのエンジンを「オートバイみたい」と評する。そのくらい高回転までよく回るエンジンだった。 

長距離を運転しても全く疲れないシート、道路の継ぎ目や段差を乗り越える時のしなやかな足。小排気量なのに、マニュアルモードで走れば、高速道路での追い越しもストレスがなかった。

低速域ではややぎくしゃく感があったけれど、アクセル操作を丁寧に行う癖もついた。難しいところがあったおかげで、「いいクルマとは何か」ということを考えるきっかけを与えてくれた。
▶︎2003年〜2005年まで販売された2代目LUTECIAの最終型。1.2ℓのエンジンに、マニュアルトランスミッションを自動で変速させる機能の"クイックシフト5"を組み合わせた。小排気量ながらよく回るエンジンで、知るひとぞ知る大衆車の中の「名車」と言われている。


今思えばルーテシアは、この仕事をする「資格」が欲しくて格闘した日々の、私のパートナーだった。運転に慣れたくて、夜中に何度、三浦半島を走っただろう。

仕事に悩み、考えごとをするのもこのクルマの中だった。元気な時もそうでない時もいつも一緒だったせいか、何だか人間っぽいクルマだったなぁと思う。

5年ほど経って、そろそろ次に進みたいなと思ったのだが、全く知らない人のもとに行ってしまうのが寂しくて躊躇していたら、後輩のムラカミが欲しいと言う。

ルーテシアは、またしてもペーパードライバーの女の子のところにもらわれて行ったのだ。「やれやれ」というルーテシアのつぶやきが聞こえてきそうである。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年生まれ。大学を卒業後、OLを得て独立。フリーランスライターの後、本誌編集部に。ペーパードライバーから始めて、2009年から4回連続でモンゴルラリーに出場し、2015年1月のダカール・ラリーではHINO TEAM SUGAWARA 1号車のナビで出場することが決まっている。

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