メルセデス・ベンツが直6エンジンを復活させた理由

メルセデス Sクラス セダン

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2017年、メルセデス・ベンツは、新型のS450で直列6気筒エンジンを復活させました。ダウンサイズが主流となり、小排気量の3気筒や4気筒をベースに使うモデルが増えているなか、なぜ直列6気筒を復活させたのでしょうか?元ディーラーマンの視点から考えてみました。

文・赤井福
Chapter
現在はV6エンジンが主流
スリーポインテッドスターの威厳がなくなったメルセデス・ベンツ
直6エンジンの復活!原点回帰でメルセデスらしさを…

現在はV6エンジンが主流

1990年代前半まで、大型プレミアムサルーンに搭載されるエンジンは、最小でも3.0Lクラスの直列6気筒でした。このエンジンが下火になっていったのは、1990年代後半です。

安全性に目が向けられ、衝突安全性能を向上させることが急務となったことで、エンジンの気筒数は減らさずに、エンジン全長を短くできるV型6気筒エンジンが主流となっていきます。

エンジンルーム内のエンジンの占める長さを短くすることで、クラッシャブルゾーンと言われる衝撃を吸収する空間が生まれます。これにより直列6気筒はV6に取って代わられることになりました。さらに時代が進むと、今度はダウンサイジングにより気筒数の減少へと進んでいきます。

スリーポインテッドスターの威厳がなくなったメルセデス・ベンツ

ボンネットの先端にそびえ立つスリーポインテッドスターが、メルセデス・ベンツSクラスのトレードマークです。そこには、直列6気筒エンジン(もしくはV12)を積み、なめらかでストレスのない加速と静粛性を備えた極上の空間がありました。

各メーカーのフラッグシップカーに乗る顧客は、そのメーカーの最高技術やこだわりの技術を好み、それをステータスとしてクルマを所有しています。

筆者がレクサスでの営業マン時代、メルセデス・ベンツ SクラスやBMW 7シリーズからレクサスへ乗り換えをする方々は「直6のないSクラスは、Sじゃないから」とか、「シルキーシックスのないBMWはもういらない」などと、よく仰られていたことを覚えています。

彼らは、代々Sクラスや7シリーズを乗り継ぎ、たとえデザインが気に入らなくても、値段が高くなってもSクラス、7シリーズというブランドを買っていたのです。

同じことが、最近のメルセデス・ベンツのフロントエンブレムにもいえます。SLやAMGなどのスポーツグレードには起立した通常のエンブレムではなく、大きなスリーポインテッドスターのフロントエンブレムが装着されていました。

今ではこのエンブレムが、エントリーモデルのGLAにもつけられ、フロントグリル中央に迫力のエンブレムを装着できるスポーツグレードを選んで乗っていたオーナーも、メルセデスから離れていってしまっています。

「最善か無か」というメルセデス・ベンツの基本方針が、万人に気に入られようとする『事なかれ主義』になっているように感じます。レクサスディーラーに来たお客様が「エントリーモデルの増加で販売台数は増えたかも知れないけど、熱狂的なメルセデスファンは置き去りにされている」と言っていました。

もはやボンネットの上のエンブレムは、ただの飾りとなり、Sクラス=直列6気筒=所有する満足という方程式が成り立たなくなっているのです。

直6エンジンの復活!原点回帰でメルセデスらしさを…

メルセデス・ベンツでは、S450で直6エンジンを復活させるにあたり、「メルセデス・ベンツSクラスはいつの時代も世界の自動車の指標とされてきたフラッグシップモデルです。(中略)安全性と快適性、効率性など自動車に求められるあらゆる要素を兼ね備えて生まれ変わりました」というアナウンスを行っています。

そこでS450に搭載された新型直列6気筒エンジンは、なめらかさや静粛性はそのままに、コンパクト化にも成功。ターボチャージャーと電動スーパーチャージャーは、爆発的なパワーとまったく継ぎ目のないシームレスな加速をもたらしてくれています。

この乗り味は、V8ハイブリッドの先代レクサス LSでは、まったく歯が立たないほど素晴らしいものでした。メルセデス・ベンツでしか成し得ないクルマを作り上げたS450は、メルセデス・ベンツ離れをしてしまった往年のファンを取り戻すことができるでしょうか?


時代背景や風潮により、流行り廃りの激しいクルマの世界ですが、プレミアムブランドを愛する人達には、そのメーカー独自の特色が色濃く出たクルマに乗り続ける人が多くいます。

時代錯誤と言われても、フラッグシップカーには、世の中に迎合することなくブランドの意思を貫いていって欲しいものです。

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文・赤井福
大学卒業後、金融業に従事。その後、6年間レクサスの営業マンとして自動車販売の現場に従事する。若者のクルマ離れを危惧し、ライターとしてクルマの楽しさを伝え、ネット上での情報発信を行っている。
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