Rolling 40's Vol.71 王様気分

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パガーニというスーパーカーメーカーが好きだ。単なるスーパーカー世代の遠吠えではない。そのメーカーの社是の「芸術と科学の融合」にシビれてしまう。このメーカー、既存のスーパーカーとは何かが違う。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.141 2014年8月号]
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Vol.71 王様気分

Vol.71 王様気分

このメーカーのマシンには、昨今のレーシングカーの延長のようなスーパーカーではなく、私たちスーパーカー世代の少年の目に映っていた幻のような存在感がある。

そもそもこのメーカー、その概要を知っている人と知らない人の間には、フェラーリを知っている人と知らない人の間より深い溝があるかもしれない。

この不思議なスーパーカー専門の自動車メーカーの概要を簡単に説明すると——。

創始者はアルゼンチン出身のランボルギーニに在籍していた経歴を持つデザイナーのオラチオ・パガーニさん。メーカーはイタリア北部モデナのサン・チェザーリオ・スル・パーナロに本拠地を置く。

メーカーとしての初めてのクルマは「ゾンダC12S」。カーボンを多用した車体構造を持ち、独特な有機的デザインと圧倒的な動力性能、現代アートを思わせるインテリア、そして非常に高価な価格で発売と同時に有名になった。現在は「ゾンダ」からモデルが変わり「ウアイラ」というモデルを生産している。

エンジンは自社開発ではなく、メルセデス・ベンツ(AMG)のものをベースに自社チューニングを施して使用している。これはイタリアのスーパーカーメーカーとしてはとても珍しいケースだ。

少量生産メーカーであることの自由性を活かし、スペシャルモデルや、特別な顧客からの細かな注文に応じた特注モデルを多数製作している。

しかしモータースポーツに関しては、サーキット専用モデルやプライベーターへの車両提供を行ってはいるが、自動車メーカーとしてのワークス参戦は行わない。それはストリートカーに対する社長の強い拘りである。

参考までに現在のモデル「ウアイラ」の車重は730馬力に対して1350㎏と、このクラスではかなりとんでもないパワーウェイトレシオで軽量だ。これは市販車最強の1001馬力を誇るブガッティ・ヴェイロンを上回る。

今の説明にあまり興味を惹かれなかった方にもっと簡単な説明を加えると、フェラーリやランボルギーニを愛好するような富裕層の上にいる、いわば「王様級」の超富裕層をターゲットとした、超絶スーパーカーの製作を専門としたイタリアの不思議メーカーと言えば分かり易いだろう。

フェラーリやそのクラスのスーパーカーを持つ友人なら、私も数人いる。マクラーレンMP4-12Cなら強引に貸してもらい乗り回したこともある。

そんな彼らとて、実際の生活は私たちと大して変わるものではない。デカいマンションや家に住んではいるが、召使いが何人もいるという訳ではない。飲食だって青山のイタリアンに週2回くらい行って3万くらいのワインを2本飲んだりしているが、普通に私と居酒屋に入ってホッピーも飲む。

飲み過ぎれば女房のとんでもない無駄遣いの愚痴をこぼすこともある。要するに、基本的部分では私たちの生活と大した違いはない。

同じようにフェラーリだって1000万円くらいの中古なら、とんでもない無理と犠牲を払えば、独身が前提なら年収500万円のサラリーマンでも買えないものではない。実際にそういう体験を本にしたものもある。

しかしそれは一番くだらない日本的一点豪華主義の最たるもので、やはりフェラーリに乗るには、それ相応の社会的資格というものがあると思う。

それ相応の生活ができる大人の趣向品としてのスーパーカーなのであるから、スーパーカーを欲しがる前に、仕事で成功するのが先なのである。加えて多くの方から尊敬されなくてはいけない。

その順番を間違えてしまうと、スーパーカーは妬みの象徴でしかなく本末転倒だ。そのことを私たちスーパーカー世代は、もう大人なのだからしっかり知るべきだ。

だがこのパガーニは、そういう連中のさらに上の領域の輩を相手にしている。ある意味、私たちには想像もできない領域の「人間」の気持ちに触れているということだ。

そういう連中は何を欲しがり、何に対して価値を見出しているのかと考えると、別の意味でのスーパーカーというものが見えてくる。

成金やバカボンではなく確固たる富裕層は、値段の大小ではなく、「生き金」「死に金」に拘ると言う話をよく聞く。本能的なものなのか「死に金」ならば数千円の出費も惜しむらしい。

彼らに「生き金」と思わせる魔力とは何なのだろうかと考えると、やはりそれは虚栄心ではなく、パガーニ社の拘りに対する「投資」なのではと思ってしまう。ある種の芸術品を買うようなものだろう。

実際に見てみようかと赤坂にある日本パガーニのショールームを見に行ったが、私などにはその本質が分かるはずもなく、スーパーカー少年のように写メを撮っただけであった。

そんな私であるが、中古のフェラーリを無理して買うということが、一番の「死に金」であるということだけは分かってきた。

パガーニを愛でるような人生は「来世」に期待して、とりあえず、4台に増えてしまったバイクを磨いている夏休みである。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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