オンナにとってクルマとは Vol.68 通い慣れた道

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縁もゆかりもなく、まったく土地勘もない街に引っ越してきて、2ヵ月が経とうとしている。いつだったかお散歩番組で見た記憶のあるカフェレストランや、隠れ家風のベーグル屋さんを見つけてちょっと嬉しかったものの、食材や日用品を買う店、ガソリンスタンド、本屋さんにクリーニング店など、生活を成り立たせるのに欠かせない“行きつけの場所”のすべてを新たに開拓しなければならず、まだなかなかしっくりこない毎日を送っている。

text : まるも亜希子 [aheadアーカイブス vol.162 2016年5月号]
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Vol.68 通い慣れた道

Vol.68 通い慣れた道

そして、しっくりこないのはお店だけでなく、「道」もそうなのだと気づいた。通い慣れた道、いつもの道。それを1日にしてすべて失ってみて、今までどれほど「道」に運転を支えてもらっていたかを思い知ったのだった。

この交差点を曲がったら、もう我が家はすぐそこだと思える道。車線変更のタイミングはわかっているし、急に道幅が狭くなる場所もクリアできる、自分の名前を書くくらいスラスラと通れる道。「ここが渋滞していたら、次の角を曲がれば回避できる」なんて裏技を知ってる道。

きっと、私は何年もかけてそうした道のストックを増やして、だんだんとリラックスして運転できる範囲を広げてきたのだろう。今まで、それは運転しているクルマに慣れたせいだとばかり思っていたのだから、自分の浅はかさにツッコミを入れたくなる。ホッとする安心感に包まれたり、肩の力を抜いてスムーズに走れたりするのは、そうした「道」もセットだったのだ。

失って初めて気づく、なんて言うとベタな失恋ソングみたいだけど、私は今、2ヵ月前まで住んでいた街の通い慣れた道たちが、とても恋しい。この気持ちはこれからどう変わっていくのか。新しい街の方が、運転していて落ち着くと感じるようになるには、あとどれくらいの時間が必要なのか。そんな、心の変化に敏感になっていようと思う。

そういえば、ここ数年でどんどん新しい道が開通している地方都市に、親戚が住んでいる。クルマは1人1台が当たり前で、見ていると男性たちは我先にとその道を使って、便利になった、早くなったと絶賛していた。でも女性たちは、路面は荒れてるし道幅も狭いはずの旧道を、いまだに使い続けている。

「慣れてる方がいいから」と彼女たちが言うように、女性にとっては便利さや時間短縮よりも、どれだけ安心して運転できるかどうかの方が大切なのかもしれない。

毎日毎日、ただ通っていると思っていた道。でもその時間の積み重ねが、私たちの心の支えや思い出になっていく。

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まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。
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