オンナにとってクルマとは Vol.76 宝物のある人生

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実家で探し物をしていたら、押入れの奥深くから私の“宝箱”が出てきた。もう10年以上眠っていた箱の中には、他人にはまったく価値のない、そして私にとっても今となっては何の使い道もない、大量の鍵がしまってあった。自転車や机の引き出し、旅行カバンかなにかの鍵、そして歴代の愛車の鍵たちだ。


text:まるも亜希子 [aheadアーカイブス vol.170 2017年1月号]

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Vol.76 宝物のある人生

Vol.76 宝物のある人生

なにかキッカケがあったのか自然にそうなったのか、私は幼い頃から鍵を鍵穴にさして開けるというドキドキ、何が出てくるのだろうというワクワクがたまらなく好きで、収拾するクセがあった。

母が専業主婦だったので、家の鍵はなかなか持たせてもらえず、自分専用に持てた自転車や机の鍵が、私にとっては特別な宝物になった。



だから、あんなに大きなモノを動かすことができる、クルマの鍵を初めて手に入れた時の嬉しさは忘れられない。昔のクルマは簡単にスペアキーが作れたので、愛車を手放す時に記念にと、1個ずつ手元に残しておいたのだった。

それらをひとつひとつ手に取ると、20年以上の時が経っているというのに、回した時のブルンブルンという振動までよみがえってくる。もう二度と、この鍵でクルマを動かすことはできないけれど、こうして私の心を震えさせることはできるのだと、とても温かな気持ちになって再び宝箱を閉じた。

いつしか愛車の鍵はスマートキーに変わり、私にとってそれは鍵ではなく単なる道具、電子機器という認識になってしまった。バッグに入れておけばクルマは動くから、手に取る機会もほとんどない。そのくせ大きくて重くて、ちょっとジャマなものにさえなっていた。

そんな時、銀座に新しくオープンした日産のギャラリー、「NISSAN CROSSING」に行ったという叔母が、プレゼントを買ってきてくれた。小さな箱に入っていたのは、鮮やかな赤が美しい牛革のスマートキーケース。

自分では欲しいと思ったこともなかったけれど、せっかくなのでセットしてみた。純正製品だけあってピタリとフィットし、まるでドレスを着たかのよう。ただの道具だったスマートキーが、急に素敵に上品に大変身して驚いた。



それからというもの、バッグのポケットからチラリとのぞく赤に、ちょっとウキウキしているのが自分でもおかしい。

カタチが変わろうと鍵穴がなくなろうと、少し愛情を注いだだけで特別な存在になるクルマの鍵は、やっぱり永遠に私の中の宝物だ。叔母はクルマを運転しないけれど、70代になっても自由でアクティブで、いつもオシャレ。

女はそういう宝物がひとつあるだけで、人生がうんと楽しくなるものよと、教えてもらった気がしたのだった。



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まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。
ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。


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