Letter From Mom 夫とこどもとクルマたち vol.4 妻の許容

アヘッド Letter From Mom

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学生時代から一緒にクルマやバイクに熱中してきたという、夫の親友が結婚式を挙げた。彼は夫のレースによく応援に来てくれて、私も仲良くさせてもらってきたひとりだ。彼が婚活に励んでいると聞き、いつ結婚宣言が飛び出すかと期待して待つこと1年、また1年。「なかなかうまくいかないらしいんだよなぁ。いいヤツなんだけどなぁ」と夫は腑に落ちないようだが、私にはひとつ思い当たることがあった。

text:まるも亜希子 [aheadアーカイブス vol.176 2017年7月号]
Chapter
vol.4 妻の許容

vol.4 妻の許容

彼は長いこと、クルマ仲間から譲り受けた初代ロードスターをコツコツといじり、直しながら大切に乗っている。それだけなら微笑ましいのだが、彼や夫の深すぎる「クルマ愛」に私はたびたび驚かされた。

クルマ仲間のひとりが愛車を手放すと言えば、価値のわからない他人に渡すまいとお金を出し合って“保護”したり、自分が最初に買ったクルマが廃車寸前だと聞けば、スッ飛んで行って牽引ロープで引き取ってきてしまう。さすがにその時は、「そんな動かないクルマ持ってきて、どうするつもりなの?」と怒った。

思い出の詰まったクルマが愛しいのはわかるし、見かたによってはロマンチストとも言える。でも、それをいつまでも引きずってなんとか保存しようとする心理は、多くの女性が望むロマンチックとはほど遠い。

お金がかかることだけに、「私との未来より思い出の方が大事なのね」なんて、愛想を尽かされたっておかしくない。それを理解、もしくは許容できる女性というのは、そうそう見つからないのではと私は密かに案じていたのだった。

それがしばらくして、夫のレースに彼が女性を連れて応援に来た。彼女はクルマ好きというわけではないらしいが、一緒にレース観戦を楽しんでくれている様子。そこで私はランチの時に、ちょっと彼に意地悪を言った。

「彼女のためにも、もっと快適なクルマに買い換えたら?」「いや、それは……」と動揺する彼の隣りで、「私はぜんぜん平気ですよ」とニコニコしていた彼女。その姿に夫と私は、「彼女ならうまくいきそうだね」と安心したのだった。

結婚式にはクルマ仲間が集結し、新郎新婦それぞれの友人が誓いの言葉をかけあう人前形式ではじまった。クルマ仲間代表が新婦に、「結婚しても新郎がクルマ趣味を続けることを許していただけますか?」と問いかける。

「わかりました、許しましょう」 新婦の承諾に温かい拍手と歓声が沸き起こり、みんな自分のことのように嬉しそう。年齢も仕事もバラバラ、だけどクルマがつなぐ絆ってのもいいものだなぁと、幸せな気持ちに包まれたひと時だった。

そしてめでたくお開きとなり、私は晴れやかな新婦と思わず「お疲れさま」のハグ。そこでハッと気がついた。そうか、私にも今日から、“クルマ好きの夫を持つ仲間”という、心強い存在ができたのだ。私は再び幸せな気持ちになった。そしてこれから、もっともっとこんな仲間が増えるように頑張ろうと、新たな意欲が湧いてきたのだった。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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