EVオヤジの未来予想図 VOL.7 燃やし続けた人類の歴史

アヘッド EVオヤジの未来予想図

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内燃機関自動車は、いうまでもなく石油で動く。このことがEVシフトの要因の全てである。

text:舘内 端 [aheadアーカイブス vol.184 2018年3月号]
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VOL.7 燃やし続けた人類の歴史

VOL.7 燃やし続けた人類の歴史

すでに石油から再生可能エネルギーへの転換が世界で始まって久しい。世界最大の石油埋蔵量を誇り、米国と産油量世界1位を競うサウジアラビアさえも、脱石油戦略を始めている。EVシフトはその一環のひとつに過ぎない。エネルギーの転換という世界の大きな流れを忘れたEV論議は無意味だ。

さて、人類の5万年から10万年にも及ぶ長い歴史は、火を起こしたことから始まった。人類以外に火を操る生命体はいない。火を操るのは、人類の証だ。しかし、火を燃やさない時代に私たちは突入している。火を燃やさなければ、それは人類ではないのだから、私たちはこれまでの人類から別種の生き物に移りつつあることになる。デジタル生命体とでも呼んでおこうか。

火は、長い人類の歴史で暖を取り、光としてあたりを照らし、食物を煮たり、焼いたりするために使われてきた。

だが、ル・ネッサンスを経て、科学的思考方法を手に入れた人類は、火から動力を引き出す方法を発明した。これは人類史上、革命的な出来事であった。それが証拠に、それ以降の人類の歩みを根底からひっくり返すことになる産業革命が起こったのである。

この革命は世界を豊かな国と搾取される国に明確に分けることになった。やがて豊かな国は領土(植民地)を広げる帝国主義国家となり、これらの国家同士の大戦争が起こった。しかも火から動力を取り出すことに成功した帝国主義国家は巨大な破壊力をもつ兵器を作り、人類史上、もっとも悲惨な戦争を引き起こしたのだった。

そして、巨大な帝国はついにモノを燃やすことなく動力を生み出すことに成功する。その動力は世界を壊滅させるほどに強力であり、その新しい動力を使って先の大戦を終結させたのであった。これは第三のエネルギー革命である。

だが、第三のエネルギーは悲惨な結果しか残せず、誕生から70年ほどで退場を迫られることになった。この話は別の機会に詳しく述べよう。

最初に火から動力を引き出すことに成功したのは、英国人のトマス・ニューコメンであった。火で窯の水を温め、水蒸気を作り、これをシリンダーに送り込んで鉱山で排水を行った。1710年頃のことであった。これ以降、ツインカム4バルブも、ターボも、ハイブリッド車も、あらゆる火力を使う動力機構はニューコメンの改良版に過ぎない。

この蒸気機関を改良したのがジェームス・ワットだ。ニューコメンの発明からおよそ66年後の1776年(安永5年徳川時代)に、実用的な蒸気機関を稼働させた。ちなみに〝ワット〟は〝W〟と表記して動力の単位として使われることになった。

やがてワットは蒸気の力を回転力に換えることに成功し、蒸気機関を排水だけではなく紡績や製粉にも使えるようにした。本格的な産業革命はこうして始まった。18世紀末のことであった。

ワットの蒸気機関は鉱山の排水だけではなく、炭鉱の排水にも使われた。そして掘り出された石炭こそが、次の時代を作り上げたのだった。石油時代の前史となる石炭時代の始まりだ。

19世紀が始まるや否や、掘りだされた石炭の火で人類は移動することを覚えた(?)のである。リチャード・トレヴィシック(英国)による蒸気機関(車)の発明だ。そして英国全土に鉄道網が整備されるのに、それほど時間はかからなかった。

2~5万年前に徒歩で始まったグレートジャーニーによって全世界に広がった人類は、19世紀の初頭に火の力によって移動するようになった。それからおよそ100年。人類は外で燃やして動力を得る外燃機関から、火を円筒(シリンダー)の中で爆発的に燃やす内燃機関を発明する。舞台は英国から独国に移る。ゴットリーフ・ダイムラーとカール・ベンツの登場だ。明治19年のことであった。

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text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
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