KAWASAKI Z900RSの存在意義
更新日:2024.09.09
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カワサキのZ900RSが絶好調だ。昨年末にリリースが始まった途端、受注分だけで'18年の年間販売予定台数を軽々と突破し、12月の月間小型2輪車部門(251㏄以上)のトップを獲得した。その立役者になったのがこのモデルである。もしもいま、ディーラーでZ900RSを見つけたら、迷っている暇はない。
text:伊丹孝裕 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.184 2018年3月号]
text:伊丹孝裕 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.184 2018年3月号]
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KAWASAKI Z900RSの存在意義
カワサキは時折、ここぞというタイミングでこうしたビッグヒットを飛ばしてきた。スペック至上主義だった時代にノスタルジックさを打ち出したゼファー('89年)はその最たる例で、近年では250㏄クラスにセパレートハンドル&フルカウルの本格スポーツバイクを復活させ、多くのフォロワーを生み出したニンジャ250R('08年)の成功が記憶に新しい。
これらはいずれも「ブームに対するアンチテーゼ」であり、「マジョリティに対するマイノリティ」だった。イチかバチかとまでは言わずとも、その時の主流からあえて外れることによって新しいマーケットを掘り起こす、そんなチャレンジが実を結んだのである。
翻ってZ900RSはどうか。その車名も流麗な燃料タンクも火の玉カラーと呼ばれる車体色もかつての名車900スーパー4('72年)、いわゆるZ1がモチーフになっていることは明らかであり、カワサキもそれを積極的にアピールしている。
そういう意味では、世界的な広がりを見せているネオクラシックブームの1台に過ぎないのだが、同じジャンルのライバルと比較して抜きん出て評価が高い。その理由を紐解いていくと、そこにあったのはやはりカワサキ独自のアプローチだった。
これらはいずれも「ブームに対するアンチテーゼ」であり、「マジョリティに対するマイノリティ」だった。イチかバチかとまでは言わずとも、その時の主流からあえて外れることによって新しいマーケットを掘り起こす、そんなチャレンジが実を結んだのである。
翻ってZ900RSはどうか。その車名も流麗な燃料タンクも火の玉カラーと呼ばれる車体色もかつての名車900スーパー4('72年)、いわゆるZ1がモチーフになっていることは明らかであり、カワサキもそれを積極的にアピールしている。
そういう意味では、世界的な広がりを見せているネオクラシックブームの1台に過ぎないのだが、同じジャンルのライバルと比較して抜きん出て評価が高い。その理由を紐解いていくと、そこにあったのはやはりカワサキ独自のアプローチだった。
成功の要因は、まずなによりもZ1が持つヒストリーだ。今あるネオクラシックモデルの多くはモチーフになるオリジナルを持たず、持っていたとしてもそれが後世に名を残すようなエポックメイキングなモデルだったケースは少ない。
単に「60年代風」だったり、漠然と「あの頃のカフェレーサーにインスパイア」されただけだったり、すぐにはピンとこないような「あのモデルのリバイバル」だったり。そうした謳い文句は当時を知っていればいるほど気持ちを覚めさせるが、Z1はその成り立ちといい、実際のスペックといい、伝説めいたエピソードも含めて確かなブランドを持つ。
それでいてZ900RSはクラシックであることに固執せず、Z1の面影を深追いしていない。その雰囲気は円形のヘッドライトとミラー、ティアドロップ型の燃料タンク、テールカウルの形状に見て取れる程度で、あとはエンジンもフレームもサスペンションもタイヤも極めて現代的なパーツで構成されている。そして、それこそがZ900RSの価値であり、カワサキのチャレンジなのだ。
例えば、'10年に登場したホンダのCB1100を引き合いに出すと分かりやすい。かつてZと凌ぎを削ったCBの名はホンダの歴史を語る上で欠かすことのできないブランドゆえ、開発陣はそこに忠実であろうとした。
そのため、ベースになったエンジンは水冷だったにもかかわらず、わざわざ空冷に仕立て直し、シリンダーに配されるフィンの厚みや間隔、シリンダーヘッドの大きさもそれらしく見えるようにこだわった。もちろんリヤサスペンションはツインショックである。
そんな新生CBは一定の成功を収めたものの、Z900RSを取り巻く現在の熱量とは明らかに差がある。時代を読み間違えたわけでもなく、価格が不当だったわけでもない。あえて言うなら、うつろいやすく不確かなマーケットのニーズにとらわれ、「CBはかくあるべき」というユーザーの声に実直過ぎたのだと思う。
単に「60年代風」だったり、漠然と「あの頃のカフェレーサーにインスパイア」されただけだったり、すぐにはピンとこないような「あのモデルのリバイバル」だったり。そうした謳い文句は当時を知っていればいるほど気持ちを覚めさせるが、Z1はその成り立ちといい、実際のスペックといい、伝説めいたエピソードも含めて確かなブランドを持つ。
それでいてZ900RSはクラシックであることに固執せず、Z1の面影を深追いしていない。その雰囲気は円形のヘッドライトとミラー、ティアドロップ型の燃料タンク、テールカウルの形状に見て取れる程度で、あとはエンジンもフレームもサスペンションもタイヤも極めて現代的なパーツで構成されている。そして、それこそがZ900RSの価値であり、カワサキのチャレンジなのだ。
例えば、'10年に登場したホンダのCB1100を引き合いに出すと分かりやすい。かつてZと凌ぎを削ったCBの名はホンダの歴史を語る上で欠かすことのできないブランドゆえ、開発陣はそこに忠実であろうとした。
そのため、ベースになったエンジンは水冷だったにもかかわらず、わざわざ空冷に仕立て直し、シリンダーに配されるフィンの厚みや間隔、シリンダーヘッドの大きさもそれらしく見えるようにこだわった。もちろんリヤサスペンションはツインショックである。
そんな新生CBは一定の成功を収めたものの、Z900RSを取り巻く現在の熱量とは明らかに差がある。時代を読み間違えたわけでもなく、価格が不当だったわけでもない。あえて言うなら、うつろいやすく不確かなマーケットのニーズにとらわれ、「CBはかくあるべき」というユーザーの声に実直過ぎたのだと思う。
一方、Z900RSはそうした足かせをほとんど切り捨てた。Z1とは比較にならないほどコンパクトな水冷エンジンをアンダーパイプのない軽量トレリスフレームに懸架し、マフラーにはかつての4本出しではなく、最低限の容量を持つ集合タイプを採用。サスペンションはフロントに倒立フォークを、リヤにはリンク式のモノショックを備え、そこに前後17インチのラジアルタイヤを組み合わせた上でトラクションコントロールまでもが装備されている。
要するに、Z900RSは外観の一部にクラシックの要素が盛り込まれているものの、実態としては生粋のスポーツバイクなのだ。
もしもマーケティングが先行していたなら、Z900RSは今とはまったく異なる佇まいになっていたに違いない。事実、ネット上には「水冷なんかつまらない」、「なぜツインショックじゃないんだ」、「Zとは似ても似つかない」…というネガティブな意見が多勢を占め、もしも開発途中でそれを聞かされればエンジニアの気持ちは相当揺らいだことだろう。
しかしながら、カワサキは機械として正常進化させることを選んだ。結果的にネットやマーケットリサーチでは声を上げることのないサイレントマジョリティがそれを支持し、既述の圧倒的なセールスの原動力になったのである。
バイクの存在意義は様々だが、いつの時代もどんなモデルでも手足のように操れる一体感や爽快なパフォーマンスは多くのライダーが求めるところだ。ネオクラシックといえどもそれを忘れることなく追求したカワサキとその本質をしっかりと見極めたユーザーの見識がZ900RSを成功に導いているのである。
要するに、Z900RSは外観の一部にクラシックの要素が盛り込まれているものの、実態としては生粋のスポーツバイクなのだ。
もしもマーケティングが先行していたなら、Z900RSは今とはまったく異なる佇まいになっていたに違いない。事実、ネット上には「水冷なんかつまらない」、「なぜツインショックじゃないんだ」、「Zとは似ても似つかない」…というネガティブな意見が多勢を占め、もしも開発途中でそれを聞かされればエンジニアの気持ちは相当揺らいだことだろう。
しかしながら、カワサキは機械として正常進化させることを選んだ。結果的にネットやマーケットリサーチでは声を上げることのないサイレントマジョリティがそれを支持し、既述の圧倒的なセールスの原動力になったのである。
バイクの存在意義は様々だが、いつの時代もどんなモデルでも手足のように操れる一体感や爽快なパフォーマンスは多くのライダーが求めるところだ。ネオクラシックといえどもそれを忘れることなく追求したカワサキとその本質をしっかりと見極めたユーザーの見識がZ900RSを成功に導いているのである。
●Kawasaki Z900RS
車両本体価格:¥1,296,000
(メタリックスパークブラック、税込)
総排気量:948cc
最高出力:82kW(111ps)/8,500rpm
最大トルク:98Nm(10.0kgm)/6,500rpm
車両本体価格:¥1,296,000
(メタリックスパークブラック、税込)
総排気量:948cc
最高出力:82kW(111ps)/8,500rpm
最大トルク:98Nm(10.0kgm)/6,500rpm
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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。