Rolling40's vol.44 モテるオッサンでいこう
更新日:2024.09.09
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新しいスポーツカーと大人たちの関係を探しているかのように、ハチロクとBRZが盛り上がっている。予約も一杯ですぐに手に入るような状況ではないという話も聞く。またメーカー自体が合法的な改造を推進しているのが興味ある動向で、改造パーツ専用の分厚いカタログもあるくらいだ。個人的には良い流れだと思う。
text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.114 2012年5月号]
text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.114 2012年5月号]
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- vol.44 モテるオッサンでいこう
vol.44 モテるオッサンでいこう
ちょっとした改造でも犯罪者扱いされた時代を知っているだけに、ディーラーがマフラーやサスペンションやエアロバ
ーツを売ったりするのは、何とも隔世の感がある。
このクルマのコンセプトに、若者のクルマ離れに歯止めというような文句があった。だが、実際に元祖ハチロクを18歳や20歳で長いローンを組んで手に入れ、無茶苦茶な改造をしていた、昔の若者である私たちからすると、「違和感」があるというのが正直な気持ちだ。
私はここに噛みつきたくなった。上辺の話はやめてほしい。もっと正直に言えばよい。
「あの頃の走り屋青年、カムバック。子供の学費や家のローンなんて気にするな」。
このクルマ、ハッキリ言ってそれ以外に何のコンセプトがあるというのだろう。こんなので家族旅行も出来るわけがないし、奥さんがマニュアル免許を持ってないから車庫の入れ替えも地獄絵図、狭いリアシートで子供がアイスクリームをレカロシートの縫い目になすりつけて父が発狂するのがオチである。もっと金持ちオジサンはBМWのМ3かZ4を買う。
繰り返すが、ハチロクが欲しくて改造しまくりたい私だからこそ、ハッキリ言わせてもらう。そして前ハチロクを主役にしたDVD映画も実際に企画主演している立場であるからこそ、愛の暴言を言わせてもらう。
ハチロクを買って改造する若者がいないとは言えないが、そのコンセプト自体が私たち直撃であり、それ以外の何者でもないのだ。
その世代をリアルに体験している私なので正直に書くが、あの時代、ハチロクに限らず、スポーツカーを若くして無理に買って、さらに改造などをしていた若者たちは、ほとんどが建設関係や職人系の人間だった。時代を表すように、彼らは月給50万くらい貰う者も少なくなかった。
実際に私の仲間でも、20代前半に限っては、特殊な例を除いて、大学を出て一般企業に就職をした仲間より、建設や職人系で頑張っている仲間の方が派手に金を使っていた。
また彼らの金の使い方というのが、江戸時代の職人たちの言葉にあるように「宵越しの金は…系」な金銭感覚な場合が多かった。給料の半分以上をクルマと改造費のローンに充てることも珍しくはなかった。ローン会社の審査も甘く、そんな若者に300万くらいのローンを平気で組ませていた。
良い悪いではなく、実際にその時代のチューニングカー業界にドップリ関わっていた私の周りにはそういう風景が幾つもあった。私も含めた、そんな金銭感覚な輩たちに日本のスポーツカーのチューニングシーンは育てられたと言っていいと思う。
そんな世代が少し元気がない時代である。だからこそ堂々と「こいつで、また無茶苦茶しようぜ」と正々堂々言えばよいのである。あのクルマを若者に買わせて改造しろということ自体が、今の日本が抱えている病魔を象徴しているとしか思えない。
脂ぎって太って禿たけど、あのころの青年よ、今こそカムバック、ローンの金利も安くするぜ、と堂々と言って欲しいのだ。ちなみにアメリカなんかのクルマのコマーシャルは、平気でそういうことをする。
映画「キリン」のコンセプトとはまさにそこである。するしないは別として、バイク好きオッサンが堂々と「不良走行」する願望を体現したのである。
面白い世代検証話をしよう。故・尾崎豊の歌詞を今の10代に批評してもらうという実験を、精神科医の香山リカさんとある大学が行った。すると、まったく共感されず、「何を怒っているのか分からない」「ひとりよがりで不愉快」「気持ちが悪い」というようなはっきりとした結果が出るそうだ。
また、若いОLたちからよく聞く話で、酔っぱらうと必ず私たち世代のオッサンが「盗んだバイクで走り出す~♪」とやるあの曲、あれが耐えられないと言う。だから私はそういうお姉ちゃんたちと飲んだ時は絶対に「15の夜」や「卒業」は歌わない。
これは私たち世代が上司の歌う、加山雄三や石原裕次郎の歌にとてつもない違和感を感じたのと同じだろう。
「若者のクルマ離れに」みたいなことは、つまり「卒業」を若いОLの前でフルスロットル熱唱してしまうような、「痛いオッサン」のすることなのだ。
しかし、同年代以上の人妻たちと飲んだ時は訳が違う。「卒業」のサビの部分で、同年代の彼女は、昔の彼氏がくれたTDKのメタル・カセットテープを思い出し、涙して、その曲をもう一度歌ってくれと言った。
モテるオッサンか、モテないオッサンか、そこにはネアンデルタール人とクロマニヨン人くらいの違いがある。あなたはどっちだ。
*映画『キリン』公式サイト www.kirin-movie.com/
ーツを売ったりするのは、何とも隔世の感がある。
このクルマのコンセプトに、若者のクルマ離れに歯止めというような文句があった。だが、実際に元祖ハチロクを18歳や20歳で長いローンを組んで手に入れ、無茶苦茶な改造をしていた、昔の若者である私たちからすると、「違和感」があるというのが正直な気持ちだ。
私はここに噛みつきたくなった。上辺の話はやめてほしい。もっと正直に言えばよい。
「あの頃の走り屋青年、カムバック。子供の学費や家のローンなんて気にするな」。
このクルマ、ハッキリ言ってそれ以外に何のコンセプトがあるというのだろう。こんなので家族旅行も出来るわけがないし、奥さんがマニュアル免許を持ってないから車庫の入れ替えも地獄絵図、狭いリアシートで子供がアイスクリームをレカロシートの縫い目になすりつけて父が発狂するのがオチである。もっと金持ちオジサンはBМWのМ3かZ4を買う。
繰り返すが、ハチロクが欲しくて改造しまくりたい私だからこそ、ハッキリ言わせてもらう。そして前ハチロクを主役にしたDVD映画も実際に企画主演している立場であるからこそ、愛の暴言を言わせてもらう。
ハチロクを買って改造する若者がいないとは言えないが、そのコンセプト自体が私たち直撃であり、それ以外の何者でもないのだ。
その世代をリアルに体験している私なので正直に書くが、あの時代、ハチロクに限らず、スポーツカーを若くして無理に買って、さらに改造などをしていた若者たちは、ほとんどが建設関係や職人系の人間だった。時代を表すように、彼らは月給50万くらい貰う者も少なくなかった。
実際に私の仲間でも、20代前半に限っては、特殊な例を除いて、大学を出て一般企業に就職をした仲間より、建設や職人系で頑張っている仲間の方が派手に金を使っていた。
また彼らの金の使い方というのが、江戸時代の職人たちの言葉にあるように「宵越しの金は…系」な金銭感覚な場合が多かった。給料の半分以上をクルマと改造費のローンに充てることも珍しくはなかった。ローン会社の審査も甘く、そんな若者に300万くらいのローンを平気で組ませていた。
良い悪いではなく、実際にその時代のチューニングカー業界にドップリ関わっていた私の周りにはそういう風景が幾つもあった。私も含めた、そんな金銭感覚な輩たちに日本のスポーツカーのチューニングシーンは育てられたと言っていいと思う。
そんな世代が少し元気がない時代である。だからこそ堂々と「こいつで、また無茶苦茶しようぜ」と正々堂々言えばよいのである。あのクルマを若者に買わせて改造しろということ自体が、今の日本が抱えている病魔を象徴しているとしか思えない。
脂ぎって太って禿たけど、あのころの青年よ、今こそカムバック、ローンの金利も安くするぜ、と堂々と言って欲しいのだ。ちなみにアメリカなんかのクルマのコマーシャルは、平気でそういうことをする。
映画「キリン」のコンセプトとはまさにそこである。するしないは別として、バイク好きオッサンが堂々と「不良走行」する願望を体現したのである。
面白い世代検証話をしよう。故・尾崎豊の歌詞を今の10代に批評してもらうという実験を、精神科医の香山リカさんとある大学が行った。すると、まったく共感されず、「何を怒っているのか分からない」「ひとりよがりで不愉快」「気持ちが悪い」というようなはっきりとした結果が出るそうだ。
また、若いОLたちからよく聞く話で、酔っぱらうと必ず私たち世代のオッサンが「盗んだバイクで走り出す~♪」とやるあの曲、あれが耐えられないと言う。だから私はそういうお姉ちゃんたちと飲んだ時は絶対に「15の夜」や「卒業」は歌わない。
これは私たち世代が上司の歌う、加山雄三や石原裕次郎の歌にとてつもない違和感を感じたのと同じだろう。
「若者のクルマ離れに」みたいなことは、つまり「卒業」を若いОLの前でフルスロットル熱唱してしまうような、「痛いオッサン」のすることなのだ。
しかし、同年代以上の人妻たちと飲んだ時は訳が違う。「卒業」のサビの部分で、同年代の彼女は、昔の彼氏がくれたTDKのメタル・カセットテープを思い出し、涙して、その曲をもう一度歌ってくれと言った。
モテるオッサンか、モテないオッサンか、そこにはネアンデルタール人とクロマニヨン人くらいの違いがある。あなたはどっちだ。
*映画『キリン』公式サイト www.kirin-movie.com/
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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968