スズキや日産が採用する副変速機付きCVTのメリット・デメリットとは?

ジャトコ JF015E(軽自動車/FFコンパクトカー用副変速機付きCVT)

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スズキや日産、三菱の軽自動車、コンパクトカーが採用している「副変速機付きCVT」。燃費改善の決定打のように言われていますが、一方で必要無いとばかりに採用しないメーカーもあり。その差はどこに出るのか、特に軽自動車No.1燃費をダイハツと争うスズキにとってどんなメリットがあるのか、考えてみます。

※2015年12月20日の情報です
Chapter
副変速機付きCVTとは?
メリットは変速比を大きく取って燃費改善
デメリットは複雑、重い、高価
副変速機を使うスズキ、使わないダイハツの興味深い関係

副変速機付きCVTとは?

エンジンルームの狭い車ではミッションを大型化できず、CVTの変速比を決めるプーリーも小さくなってしまう事から、変速領域を大きく取れません。そのため、高速域ではエンジンの回転数が高くなる事から、燃費向上にも限界が出てきます。

それを解決する手段として、CVTに加えて副変速機をドッキングし、変速範囲を実質的に広く取れるようにしたのが、日産系の自動車部品メーカー「ジヤトコ」が、コンパクトカーや軽自動車用に開発した「副変速機付きCVT」です。

わかりやすく言えば、CVTとエンジンの間に、もう一つ2速ATをかませて、「ハイ/ロー切り替え」させていると思ってください。

現在ではどちらかというとジムニーなどクロカン4WD向けに登坂力と高速巡航の両立のため使われている副変速機ですが、乗用車用MTに組み合わせ、MTの実質ギア数を倍にするという使われ方もしました(三菱の初代ミラージュが採用した副変速機付き「ハイパーシフト」が4速×2で実質8速ギアとして使えた、等の例があります)。

メリットは変速比を大きく取って燃費改善

CVTの一番高いギアで副変速機のハイギアを使えば、従来より高いギアになるので、高速巡航ではより低回転で燃費が良くなります。逆にCVTの一番低いギアで副変速機のローギアを使えば、従来より低いギアにできますが、その必要が無い時はCVT側のギアを全体的に高めにする事ができるので、高速巡航での回転数はもっと下がります。

プーリーの大きさが限られた軽自動車やコンパクトカー用のミッションでは、僅かな回転の差が燃費に大きく跳ね返ります。ましてや「同クラス軽自動車燃費No.1」などをうたう使命を課せられたワゴンRなどでは、副変速機の有無が非常に大きいのです。

デメリットは複雑、重い、高価

一方、デメリットの面を調べてしまうと、ちょっとその効果に疑問も出てきます。狭いスペースにCVTに加えて副変速機まで押し込んだ複雑な構造なので、パワーに対するミッション全体の容量が小さく、軽自動車以外では最大1800ccクラスまでのFF車にしか対応できません。複雑ゆえの重量増大、高コストというデメリットはもちろんです。

さらに副変速機は全域にロックアップ(直結)領域があるわけではないため、登り坂でのゼロ発進でブレーキを離した瞬間後退してしまったり、温まるまではロックアップがかからないので半クラのような感覚でダイレクト感が無いという厳しい評価も見られました。

また、明確なデメリットではないのですが、そこまでして副変速機を載せず、素直にプーリーを大きくすれば安くて容量も大きく取れたのでは無いか…ともいう疑問は、どうしても感じてしまいます。

副変速機を使うスズキ、使わないダイハツの興味深い関係

メリットはともかく、デメリットを見ると必要性がだんだん疑わしくなってしまう副変速機付きCVTですが、軽自動車でスズキ、日産、三菱のライバルであるダイハツやホンダは採用していません。

それでは随分と燃費面で不利なのではと、試しにスズキ・ワゴンRとダイハツ・ムーヴで比較すると、面白い数字が出てきました。

(それぞれ、メーカー公式HPのカタログから引用)
スズキワゴンR FZ(2WD・車重790kg):33.0km/L
スズキワゴンR FX(2WD・780kg):30.6km/L
ダイハツ・ムーヴX(2WD・820kg):31.0km・L

やはりワゴンRが燃費No1ですね!と思いたいところですが、ワゴンRのFZは発進時のモーターアシストも行うS-エネチャージ(マイルドハイブリッド)搭載モデルなので、ムーヴX同等モデルはワゴンR FXの方になります。

こちらは車重が軽くてエネチャージもあって、副変速機もあるのに僅かながらムーヴに負けてしまっており、どうも同じ条件では副変速機があってようやくムーヴ並、と評価せざるをえません。

アイドリングストップ以外はひたすら電子制御のソフトウェアとエンジン効率の熟成だけで勝負してくるダイハツの意地が見えて面白いところです。あるいはワゴンRの側で、副変速機のデメリット(低温・低速でロックアップしないなど)がメリットと相殺されてしまっているのではないでしょうか。

スズキとダイハツは過去にも、「DOHC4バルブターボ(EPI)で64馬力を達成したスズキ」に対して「SOHC2バルブターボ(EFI)にブーストアップだけで64馬力を達成し、その後もなかなかDOHCエンジンを作らなかったダイハツ」と対照的な時代がありました。

さらにさかのぼれば、排ガス規制をクリアするエンジンを作れなかったスズキが、ダイハツからエンジン供給を受けた時期もあります。

「複雑な機構を駆使して高性能を狙い、そのまま売り文句とする」スズキに対して、「基本技術を高めて複雑な機構を要せず高性能を実現するが、売り文句は少し寂しいダイハツ」という構図が、副変速機付きCVTやS-エネチャージに置き換わって今でも続いているのは面白いところです。

ただし、そこでダイハツは真面目で良いメーカーで、スズキは技術力で劣るから付属品でカバーしている、とは単純に言えないのが、車の面白いところです。ユーザーからすればカタログをパっと見た時の説得力が大事なので、さりげなく高性能なダイハツより、副変速機付きCVTなど飛び道具を使うスズキの方が、商売としては上手なのかもしれません。
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