F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.41 メルセデスとマクラーレンの明暗

Vol.41 メルセデスと マクラーレンの明暗

アヘッド F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.41 メルセデスと マクラーレンの明暗

▶︎F1マシンの速さを決定づけるのは空力性能で、細かく指摘すればダウンフォース(前後ウィングやフロアで発生させる、車体を路面に押さえ付ける力)が重要。メルセデスAMGは、そのダウンフォース面でも優位に立つ。昨年までは押さえ付ける力が強すぎたためにタイヤの消耗を早めてしまった。つまり空力の優位性を生かし切れなかったわけだが、今年は課題を解決。これに、マクラーレンから移籍して加入したハミルトンのスーパーな走りが加わり、傑出した成績につながっている。写真・メルセデスAMG


エンジンはホンダからメルセデスにスイッチしたけれども、ブラウンが走らせたクルマは実質的にホンダが開発したもので、とくに空力開発は100%ホンダと言ってよかった。

その空力が抜群に優れていた。規則の隙を突くことによって、車体底面後部にあるディフューザーと呼ぶ空力デバイスの性能を倍増することに成功したからだった。慌てて他のチームも追随したが、時すでに遅し、だった。この年、ブラウンはシーズンを制した。

ダイムラーが買収したことにより、ブラウンは’10年から、メルセデスのワークスチームになった。ドライバーは総入れ替えとなり、N・ロズベルグと、4年ぶりに復帰するM・シューマッハのドイツ人コンビになった。

ブラウンでの成功体験に寄りかかってしまったのだろう。メルセデスは長いスランプを経験する。’09年に8勝もしたのに’10年、’11年は未勝利に終わった。’12年はロズベルグが、自身にとっても新生チームにとっても初優勝を遂げる。この頃から徐々に、崩れていたバランスを取り戻し始めた。

’09年はダブルディフューザーという飛び道具で他を出し抜いたが、’13年のメルセデスはタイヤを上手に使うことでライバルに対し、優位に立った。ピレリが’13年に投入したタイヤはデリケートで、少しでも乱暴に扱うと消耗が早まり、ペースダウンの時期を早めてしまう。

といって丁寧に扱いすぎると性能を引き出しきれず、スピードに乗れない。バランス点を探り出すのが難しいのだが、メルセデスは上手に見つけ出した。シューマッハに替わって加入したL・ハミルトンとロズベルグで、第11戦までに3勝を挙げている。完全に復調したと言っていいだろう。

一方、迷い道に入りこんでいるのがマクラーレンだ。ワークスエンジンをメルセデスに持っていかれたのも痛いが(エンジンを独占したい思惑もあって’15年からホンダと組む)、低迷の理由はエンジンの力不足ではない。

マクラーレンは設備・予算・人材面でF1界のトップクラスに位置するが、その豊富なリソースが災いして、クルマをいじりすぎてしまう傾向がある。一定の性能を確保していても「その先に何かあるはず」と大胆なアイデアを投入せずにはいられないのがマクラーレンの伝統であり風土なのだ。うまく回っているときはそれでいいが、ネガティブなスパイラルに陥っているときは空回りに終わってしまう。

例年、マクラーレンはシーズン後半に急速な追い上げを見せるのだが、今シーズンは底力を見せつける間もなく終わりを迎えそう。事態は深刻だ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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