F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.42 市販車とF1の距離

Vol.42 市販車とF1の距離

アヘッド F1 ルノー

▶︎ルノーは1977年から'86年まで1.5L・V6ターボを、'89年から'05年は3.5L/3L・V10を、'06年から'13年までは2.4L・V8エンジンをF1に供給してきた。こうした流れを踏まえ、'14年からは電動化したV6ターボを供給することを、歴代エンジンの展示と解説動画でPRしていた。ドイツのユーザーは自国のブランドを購入するのが大多数であり、フランスのルノーを選んでもらうには説得力が要る。長年、F1をリードしてきた実績を示せば、技術にうるさいドイツ人の関心を引くという読みだろう。


自動車の技術も楽しみだが、各ブランドが展示ブースで「モータースポーツ」をどのように扱うかを見て回るのも楽しい。そのブランドのモータースポーツに対するスタンスを知ることができるからだ。どのブランドにも共通しているのは、モータースポーツを自己ブランドのPRツールとして積極的に活用していること。ただし、ブランドによって温度差はある。

F1にエンジンを供給するコンストラクターはフェラーリ、メルセデス・ベンツ、ルノーの3社だ。フェラーリはブースの片隅に現行マシンを展示。控え目な演出だが、フェラーリとF1の結びつきが濃いことは周知の事実なので、「そこにF1がある」だけで十分なのだろう。むしろ、控え目な展示に〝重み〟を感じる。

メルセデス・ベンツはドイツ国内で人気を誇るDTMとF1のマシンを並べて展示。マシンの近くにはKERS(運動エネルギー回生システム。いわゆるハイブリッドシステム)のコンポーネントを展示し、「S400ハイブリッドと基本原理は同じです」と説明していた。量産車で用いる技術とF1で用いる技術が近いことをユーザーにアピールする狙いだ。

F1に長く参戦していること、そのF1参戦を通じて技術力を高め、量産エンジンの開発に生かしていることを積極的にアピールしていたのはルノーだ。前述の2社に比べ、格段に広いスペースを使って「F1のルノー」をPRしていた。

壁にはレッドブル、ロータス、ウィリアムズ、ケーターハムの現行マシンが張り付いている。レッドブルのマシンの前ではF1エンジンを展示。透明カプセルに入ったこのエンジンは、一定の間隔で反転し、クリオ(日本名ルーテシア)が積む量産エンジンが現れる仕掛け。F1から量産へ、技術のフィードバックが行われていることを端的に表現している。

歴代F1と現行量産のエンジンを交互に眺めながら進むと、3種類のピストンが並んだ展示物に出くわす。1つはF1のピストン。一方には量産ディーゼルエンジンの一般的なピストンが置いてあるので、対比させるとF1用ピストンの極端な薄さが実感できる。

「そのF1用ピストンの技術を用いて作った新しい量産ピストンがこれです」と展示してあるわけだが、見れば「なるほど、F1の技術ってすごいな。量産技術の開発に役立っているんだなぁ」と感じる仕掛け。

F1の高性能なイメージだけをPRに利用するのではない。F1から得た技術のフィードバックを高性能モデルだけでなく、ごくフツーのモデルに対しても行うのがルノーのスタンス。それがよく分かる展示だった。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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