ダイソンに生きるF1技術

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ダイソンと聞くと強力な吸引力が特徴の掃除機が思い浮かぶが、ファンヒーターや加湿器もあり、いずれも技術力の高さを存分に生かしたユニークな製品に仕上がっている。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.144 2014年11月号]
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ダイソンに生きるF1技術

ダイソンに生きるF1技術

これらが家庭で使う電化製品という以外に共通するのは、いずれもモーターを使用していること。

空気を吸い込んだり、送り出したりすることが目的だが、効率良く吸い込んだり送り出したりするには、流体力学を究めることが必要で、その技術が、空気を味方につけて速く走るフォーミュラレースの最高峰、F1とリンクしているのである。

「ダイソンとF1?」と疑問に思うかもしれないが、両者の結びつきや技術開発の重要性については、同社の創業者にしてエンジニアでもあるジェームス・ダイソン氏が説明している。

「F1は運転の腕を競うだけの競技ではありません。技術を競う場でもあるのです。レースは秒単位で勝ち負けが決まりますが、勝利の栄光は長年にわたる研究開発の成果でもあります。ベッテルやハミルトン、バトンなどの名前はおなじみでしょうが、その影に隠れて力を発揮しつつ、ドライバーを表彰台に押し上げているエンジニアがいることを忘れてはなりません。彼らこそ、F1のエンジニアリング面でのヒーローなのです」

ダイソン氏は「エンジニアは世界を変える力を持っている」と力説する。F1はその象徴というのが彼の考えだ。F1発の技術革新は、実は日常生活の向上にも寄与していると指摘する。そのことにもっと気づいてほしいというのが、ダイソン氏の願いだ。とくに、若い人たちに。

「実感しにくいかもしれませんが、ある技術領域における小さな前進は、他の領域において大きな進歩につながることがあります。それがエンジニアリングというものです。ダイソンが毎週300万ポンド(約5億円)を研究開発に費やしているのは、そのため。2,000名を超えるダイソンのエンジニアは、問題解決のためなら自由に実験し、失敗できる環境を与えられています。F1を経験したエンジニアも多数いますが、彼らのエアフローに関する知識は大したものです」

F1では一時期、流体が近くの物体に引き寄せられるコアンダ効果を利用して速さに結びつける開発が行われた。その知見を持ったエンジニアが現在ではダイソンに所属し、スムーズなエアフローを実現すべく開発に没頭しているという。

家庭用電化製品にもF1のような競技の場があったとしたら、ダイソンは先頭を走っているに違いない。

▶︎「発明品こそが、ダイソンを差別化するものであり、我々はその技術で特許を取得しています。つまり、我々の特許技術を他社が模倣することはできないのです」

これは商品のパッケージに記されたジェームス・ダイソンの言葉。サイクロン技術を開発するのに、5年の歳月と5,127台の試作品をつくったという。現在もダイソンにはF1を経験したエンジニアを含め、研究・開発に2,000人以上ものエンジニアが関わっている。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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