Rolling 40's Vol.84 趣味の巣床

Rolling

※この記事には広告が含まれます

乗り物系趣味の話題は、SNSとすこぶる相性が良い。例えるならエンジンのとある部品名を検索するだけで、実際にそれを売っているサイトやプロフェッショナル的なサイト以上に、個人のブログや乗り物専用SNSなどのヒット件数の方が多い場合もある。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.154 2015年9月号]
Chapter
Vol.84 趣味の巣床

Vol.84 趣味の巣床

ネットと乗り物趣味の化学反応は、ときに相応しくない映像を動画サイトにアップしてしまい大問題になるなどということはあるものの、細分化され迷路化しているニッチ市場の巣床としては最適だ。

ある意味、既存の大手乗り物系雑誌はその細分化に窒息気味だ。ひとつひとつジャンルを追いかけたくとも、スポンサーや編集方針などに縛られ、市場全体のごく一部の特定のニーズに絞れないのだ。

それに不満を持つニッチな消費者たちは当然のようにニッチ市場をターゲットにしたネット世界に流れ、私自身も新製品からレース結果まで、新しい情報は大抵ネットから拾っている。

二輪四輪問わず、自分の愛車自慢やカスタム日記的なものをブログやフェイスブックで展開している方も多い。私自身もその一人であり、実際に自分のバイクネタをフェイスブックなどで話題にした時の反応は本業の報告などより大きいことも少なくない。

また中にはショップやいろいろなジャンルプロが、エンジンオーバーホールの過程や専門的なセッティングなどを事細かにアップしている場合もある。結果、そういったコアな情報は既存の雑誌よりもネットにあるというのが現状だ。

私もつい先日、オートバイのある部分のネジ締め付けトルクを知りたかったとき、やはり、ネットで検索して、1分もたたずにその数値を手に入れることが出来た。その数値の正しさへの保証に対する疑念を挙げる方もいるだろうが、その手のことに対して検索慣れしている私たちにとって、その真贋を見極めるのは大した作業ではない。

こういったことが日常化しているのは乗り物だではなく、釣り、ダイビング、サーフィン、鉄道など大抵の趣味の世界がネットを巣床にし始めているだろう。

心配になるのが既存の紙媒体としての雑誌である。私もバイク雑誌で15年近くコラムを持っている身なので他人ごとではない、これから先ネットやデバイスがさらに加速度的に進化していくことは明白であり、そこに多大なコアな情報が集まっていくに従い、雑誌の存在意義が怪しくなるのは避けられないたろう。

小説などという発信側のプロテクニックが必須であるコンテンツはまだ古い形態であり続ける可能性はあるが、アマチュアイズムが貴ばれる趣味の世界などはその逆である。既存の編集テクニックの優位性がSNSの進化に取って代わられ、趣味の世界のコンテンツは、さらにネットの世界に移行していく可能性がある。

ならば私たち旧勢力がそれに対抗しうるために何をすべきかと考える。多くの情報がフリーになっていく流れのなかで、お金を払ってもらうに値する商品価値を作っていく手段とは何なのか。最も分かり易い例をあげるとするならば、一般のファンでは手に入り難いプレミアムな情報だろう。その逆に新車情報的なモノはネットの方がタイムリーだし、差別化も難しい。

ジャーナリスト的な立ち位置もこれまでよりも難しいものになるはずだ。これは趣味の世界に限らず、昨今、情報発信におけるアマチュアとプロの線引きは薄れる一方だ。

果てしなく細かな情報を求める受け手側を満足させるのは難しく、表面的な試乗インプレッションなどには、昔ほどの価値はない。そんな情報よりも、一般ファンの愛車日記的なSNSの方がリアルな使い勝手やカスタムのツボ情報が溢れている。

またジャーナリストと違い、アマチュアはメーカーとのコネや無駄な縛りもないので辛口の本質論になり、場合によっては下剋上が起きる。

私のバイク雑誌との関わりは、自分だからこそ体験出来たり、関わることが出来たことのみと限定している。
とくにここ数年はオンロードとオフロードの二刀流になったアドバンテージを活かすことを考えている。また、そのリアリズムには関しては絶対の自信を持っている。

40代半ばで20年ぶりに復帰したオフロードの意味は大きい。長きに関わってきたオンロードの世界に加え、オフロードの世界に住む『原人』たちの面白味を知ったのは大きな財産だ。

オンとオフの比較論、それら二つを分かり易く表現すると、オフロードはバイクを使いこなす方法論の追求でマシンを宝物にはしない。反対にオンロードはマシンとの深い関係性に価値観を見出す方が多い。その二つは、同じ二輪でありながら趣味性としては大きく異なり、そこに集う人々の感性も別物だ。

言葉にすると簡単だが、それをリアルに見出すことは、二刀流以前の私には出来なかった。評論ではなく、身銭でやってみないと分からないことなのだろう。

------------------------------------------
text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細