おしゃべりなクルマたち Vol.91 どっちの味方?

Vol.91 どっちの味方?

アヘッド おしゃべりなクルマたち

タクシー運転手が訴えるのは彼らの顧客を横取りするアプリを使った配車サービスUberの追放。

パリのタクシーは個人運営だが、伝統あるこの仕事の資格取得は難しく、市が発行するライセンスにはアパートが買えるくらいのお金が必要で、加えて車両も自分で用意せねばならず、それでなくともテロの影響で観光客が減っているのだ、踏んだり蹴ったりの状況という。

「資格も経験もない奴にただクルマを運転するだけで客を横取りされちゃたまらない。伝統と誇りを忘れるのは社会の堕落だ」、怒りを爆発させる運転手の談話を聞いてごもっとも、と私は考える。

この時、脳裏に浮かんだのは、被害者を無料で自宅まで送り届けるために深夜、テロ現場に続々と集まったパリのタクシーの姿。そこで私は言ったのだった。「プロを守るのは行政の仕事。法の隙間をついて素人が客を奪うのはよくない」

言った相手は空港まで25キロのスーツケースを引きずって高速を歩いた知り合いである。彼女が血相を変えた。「彼らはプロであることにあぐらをかいて努力を怠ってきたのよ。それこそ行政に守られてきた。Uberは合法、ビジネス イズ ビジネスよ」

私の考えはいっきにスピンする。昔、闇に沈むセーヌ川のほとりで私の行きたい先と自分の家のある方向が反対だからと乗車拒否した何台ものタクシー運転手の顔が浮かび、あの時の怒りが思い出された。

「そうね、確かに彼らは怠慢。時代の変化に対応するのがビジネス。客が選択肢を持ってこそサービスは向上するものね」

私は双方の言い分をよく理解していると満足したが、知り合いは呆れた、それだけのようで、こう言い放った。

「あなた、いったいどっちの味方?」

ここで突然、昔の記憶が蘇る。遅刻者を減らすために開かれた学級会の様子がプレイバックした。遅刻はよくないが、遅刻するには理由があって、その理由を尋ねずに責めるべきではなく、しかしどんな理由があっても遅刻すべきではない。こんな卵と鶏のエンドレス議論が続き、最終的にこんなふうに合意した。

「みんなで校門に立って遅れそうな友達が見えたら『もうすぐチャイム鳴るよー。走って走って』、こう声を掛けましょーねー」

私はあっちを立てこっちも立て、それをデモクラシーとする時代に育った。どちらかの味方について争うより双方の立場にたつことが平和と習った。「だからそう簡単に決められない」、私が吐き出すと彼女が不思議そうに言ったのだった。

「遅刻者は処罰、これで決まりじゃない?」

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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