めざせ!転ばないバイク

めざせ!転ばないバイク

アヘッド トリシティ

-トリシティが登場した時、「これをバイクと呼んでいいのか」などという、少し意地悪な声も聞こえてきました。そこでバイクの定義をお聞きしたいのですが。

高野 バイクは曲がりたいと思った時にきっかけを作っているんですけど、そのきっかけは曲がりたい方向とは逆の方向にハンドルを切っているんです。そうした操作の結果、傾いて曲がっていくんです。傾いて遠心力でつりあいを取るんですよ。

だからオートバイの定義は何かと聞かれたら、自分たちの回答は「クルマとはハンドルの操作が違います」、それから「傾きます」ということになる。トリシティはそれと同じ動き方をするのでバイクだ、ということになります。

人間は本能的に常にバランスをとりながら動いているのですが、バイクはそうした動物的な本能に近い操作のスタイルを持っている乗り物で、操作感や乗り味などが人間の感覚になじむから、長い歴史を持ち得たのではないでしょうか。


-曲がりたい側にハンドルを切っていると思っていましたが、操作自体は逆だったんですね。

高野 意識されることはあまりないかもしれないけれど、基本的にはそうですね。


-そういう定義を持つバイクを開発する上で、高野さんが重視していることは何ですか。

高野 乗り物が安定しているという感覚を持って走れるということが大切なポイントです。よく「クイックなのが良いんだ」という話になりますけれど、私はそうは思わないんです。絶対的な安定感があって初めて、そこに運動性能がついてくると考えています。


-それは23年間にわたるレース車両開発の経験と関係はありますか。

高野 関係あるかもしれませんね。レーシングマシンはものすごいエンジンが載っていて、ものすごく軽くて、ものすごくクイックに走れるんですけれど、じゃあ何が最も重要視されているかっていうと、実は安定感なんです。

プロライダーは大抵、「安定して走れるという前提がないと、速くも上手くも走れない」と言います。私が手がけてきたマシンに乗るライダーはとんでもなく速く走る人が多かったですけれど、そういう方と、バイクの運転にあまり自信がないような人を比べても、実は差がないと感じていたんです。


-どういうことですか。

高野 プロライダーと一般の方の言ってることは、根本的にはあまり変わらないんです。「思うように上手く止まれない」とか、「ふらついちゃった」とか。運動性能がどんなに高いバイクであっても、基本的な操作には違いがありませんから。

乗り手が変わったからクルマの作り方が変わるということは、あまりないように思います。ずっとそう考えてバイクを作ってきました。

例えば以前携わった仕事の話なのですが、、バレンティーノ・ロッシの「こうしよう」に従ってバイクを開発していくと、誰が乗っても「いいですね、これ!」というようなバイクに仕上がる。ちゃんとしたものは誰が乗っても良いと分かるものなんです。


-トリシティでは、どのようにして安定感をめざしたのですか?

高野 バイクは操縦機構が集中しているフロント部分が安定を司っていますから、そこにある程度の質量を置いて、きちんとしたタイヤのグリップ力を持たせるといったことが、乗り物の安定感を作りだします。そのためには前に2つ車輪があるとそれを実現しやすいんですね。

それに加えて、フロントに1つの太いタイヤを置くよりも、2つの細いタイヤを置いたほうが、自然な乗り味にもなるんです。


-安定感と自然な乗り味を備えているわけですね。他にも前2輪のメリットって何かありますか。

高野 常に舗装の整った道ばかりを走るわけじゃないですから、例えば片方のタイヤがマンホールの上に乗るような場面では、2つのタイヤがグリップを助け合います。それも前2輪の良さです。


-安定をめざすなら、前輪の幅を広げて自立させる方向もあるのではないかと思うのですが。

高野 自立機能は将来的に挑戦しようと思っていますが、自立させようとすると、どうしても機構が複雑になるので大型化してしまうんですね。結果的に重くなるし、販売価格も上げざるを得なくなります。私たちはそこを追及するよりも、小型スクーターと遜色ない軽量コンパクトの魅力を味わっていただきたいと考えています。

ヤマハの「めざせ、ころばないバイク」はまだ研究途上にあります。トリシティーではまだそこまでは達成できていません。


-トリシティではトータルバランスの良さを実現した、ということなのですね。







-世間では、前2輪のデザインに驚かされた人が多いと思うのですが反応はいかがでしたか。

高野 日本ではまだ市民権を得ていないスタイルなので、キワモノ的な印象だったと思います。新しい存在に慣れるには、どうしても時間やきっかけが必要ですから。でも、きっとだんだん変わっていくはずです。数年後に見たら、印象が変わっていると思いますよ。


-だんだん街並みになじんでいくということですね。

高野 実際、ヨーロッパでの売り上げは好調です。特にパリやミラノでは上々の人気です。

ヨーロッパには石畳の道が多いでしょう? その石畳が、緯度が高いせいもあってか露が降りて濡れやすい。ただでさえデコボコしているのに、濡れてツルツルしているという、とんでもなく厄介な道なんです。さらに路面電車のレールが走っている場所も多い。

そういうところでは、前2輪ならではのフロント周りの安定感が強い味方になります。経験値が少ない人でも上手く操れると好評です。


-ある程度、乗りやすさがすでに証明されているということですね。実際にどんな風に乗られているのでしょうか。

高野 都市部で通勤に使う方が多いですね。3輪車としては車幅が狭いうえに、2輪車よりも安定感があることがトリシティの特長です。だから安定感を持ってカーブを曲がれますし、日本ではあまり推奨されないすり抜けも、ヨーロッパでは当たり前なので、渋滞の激しい都市部での便利な移動手段として非常に高く評価されています。


-では日本では、どのような方に乗ってほしいとお考えですか。

高野 まずバイクの免許を取得したばかりの初心者の方にもフロントの安定感を楽しんでいただけるはずです。

それと今月、排気量がアップした155㏄モデルが発売されます。これなら高速道路や自動車専用道路も走れますから、これまでオートバイに乗って来られた方にも、「普通のバイクと変わらない」と言って納得して乗っていただけると思っています。


-高速道路を走れるということのほかに、排気量を上げることで新たに加わった魅力はありますか。

高野 人間の感性の中には乗り物の動力性能に対して、「これぐらい走れば十分だ」というラインがあるように思うんですね。私の経験から言うと、自動車だけに乗られる方と比べて、オートバイに乗られる方は、その基準となるラインがちょっと高いんです。クイックイッと軽快に走らせる方が多いんですよ。

155㏄のモデルは、そのラインに十二分に達していると思います。エンジンの性能が非常に高くなっていますから。


-軽快さ、機敏さは、バイクの大きな魅力の1つに違いありませんね。

高野 バイクに慣れた方でも、155㏄のトリシティなら、「これならいいね」と、言っていただけるはずです。ヨーロッパではすでに販売が開始されているのですが、日本以上に交通の流れが速いミラノあたりでも、受け入れられています。ベテランのオートバイ乗りの方にもきっと楽しんでいただけると自信を持っています。

アヘッド トリシティ






-トリシティはこれから、どう進化していくのでしょうか。

高野 普通の2輪車に比べると、リーニングするための機能が必要な分、複雑な機構になっているんです。しかしこれはネガティブなことではありません。2輪車ではやれないことができる可能性があると考えています。

自動車と2輪車って、ほぼ同じ時代に発明されていますよね。でも現在に至るまでの間に、自動車はオートクルーズをはじめとするさまざまな機構が加わって、自動ブレーキどころか、自動運転も夢ではないところまで来ています。

一方、2輪車はそんなに変わっていません。非常にシンプルで軽量かつスポーティーであることがバイクらしさとして重視されてきた結果だと思います。トリシティには、そこからちょっと外れているところまでを含めて、より機能を増やせる可能性と自由度があります。これからはそのあたりを追求していきたいですね。


-これまでの2輪車にはなかった技術が盛り込まれ、これまでの2輪車にはなかった楽しみが生まれるかもしれないということですね。

高野 そうです。より乗りやすい方向に進化するかもしれません。今まで2輪車では入っていけなかった領域に踏み込める可能性がトリシティにはあるのです。


-夢が広がる話ですね。

高野 トリシティから始まった技術的なチャレンジは、やり甲斐がありますよ。


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text:岡小百合/Sayuri Oka
大学卒業と同時に二玄社に入社。自動車雑誌『NAVI』で編集者として活躍。長女出産を機にフリーランスに。現在は主に自動車にまつわるテーマで執筆活動を行っている。愛車はアルファロメオ・147(MT)。40代後半にして一念発起し、二輪免許を取得した。


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