自動運転車は無人タクシーなのか

アヘッド IDS Concept

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東京モーターショー2015に自動運転のコンセプトカーを展示した日産自動車は、「2020年までに自動運転技術を実用化する」と宣言している。'16年末までには高速道路上における単一レーンでの自動運転を可能にし、'18年には複数レーンに進化。'20年には一般道までカバーする計画だ。自動運転が身近になる日は目前に迫っている。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.157 2015年12月号]
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自動運転車は無人タクシーなのか

自動運転車は無人タクシーなのか

▶︎東京モーターショーで最も注目を集めた自動運転車が、日産「IDS Concept」。ステアリングの代わりにタブレットのような端末で操作を行う。自分で運転したい時は、マニュアルモードに切り替えると、手綱のようなステアリングが登場。

他のインテリア類も含めドライビングを楽しむための空間に変貌する。スバルは、アイサイトによる自動運転を視野に入れたコンセプトモデル「VIZIV FUTURE CONCEPT」を発表。メルセデス・ベンツの「Vision Tokyo」は、ドライバーもソファで寛げる自動運転の未来を提案した。



何のために自動運転を行うかといえば、主に「安全」のためだ。例えば日産は、現在発生している交通事故の約9割は人的ミスが原因だと指摘する。

クルマの運転操作から人的な要因を排除し、機械と制御でカバーすれば、人的ミスによる事故が減って被害を減らすことにつながる。それが、自動運転の開発を促す大きなモチベーションになっている。

自動運転に必要な機能は「認知」「判断」「操作」の3つに大別できる。認知とは状況を的確に把握することだ。ドライバーは前を向いているときは前方の状況しか把握できないが、カメラやレーザーレーダー、ミリ波レーダーを併用すれば、常に全方位の状況を把握することができる。

難しいのは認知した後の識別で、各種センサーで検知した物体がクルマなのか人なのか、人だとしてそれが大人なのか子供なのかを識別する必要がある。この実現には高度な人工知能が必要だ。

周囲の状況を認知〜識別したら、次は判断である。この判断もまた難題だ。例えば、赤信号とテールランプの区別。白線のない交差点での進路の設定。交差点で行き交う歩行者の動きの予測など、ミスリードを促す状況は無数にある。人間は運転を通じて経験を積み重ね、リスクの高いシーンに対応するスキルを身につけていく。

自動運転技術を実用化するためには、それと同じことを人工知能にさせなければならない。人間ならいくら経験豊富なベテランでもミスは排除できないが、自動運転ではミスは許されず、常に100%正しい判断をしなければならない。間違った判断をゼロにするためにも、実証実験が欠かせないのだ。

自動運転に必要な操作は、車間距離を保った追従走行が可能なクルーズコントロールや、車線から逸脱しないようステアリング操作をサポートする機能の延長線上で実現すると思えばいい。
ところで自動運転と聞くと、無人のタクシーで運ばれるようなシーンを想像するかもしれないが、そうとは限らない。運転の主体はあくまでドライバー。状況の認知〜判断は裏でやっておき、リスクが高まったときだけ操作が顔を出して安全をサポートする使い方も可能。

また、クルマが持つポテンシャルをフルに引き出した運転が可能になるので、加齢などによって判断能力や身体能力が衰えた人にとっては、能力拡張(高い身体能力と経験豊富なドライバーの判断力を組み合わせた運転)を実現する技術にもなる。

自動運転は運転の楽しみ奪うと考えるのは、あまりに短絡的で悲観的だ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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