ひこうき雲を追いかけて vol.46 個人競技

vol.46 個人競技

アヘッド 桜

その尾崎さんが、ラリーレイドを始める時、「ラリーは一人で完結するからいいな」と思ったそうである。ナビゲーターを必要としないオートバイは、メカさえ自分でできれば、それは実際その通りなのだ(メカが苦手、あるいは体力温存したいという人はメカニックを連れていくこともできる)。

朝起きて、自分でテントとシュラフをたたみ、主催者の用意するケータリングで食事をし、食器を自分で片付けて、荷物を主催者に預け、スタートする。競技中はもちろんひとり。自分でナビゲーションをして、好きな時にランチパックを開け、ひたすらゴールを目指す。

ビバークではまた勝手に食事をして、自分の工具でマシンのメンテナンスを行い、自分でテントを張って寝る。下手したら、一日、誰とも口を聞かなくても成立するかもしれない。何せ、基本的にひとり、というのがこの競技だ。

初めてのモンゴルラリーで尾崎さんは順調にレースをコントロールしていた。でもレースが進むにつれ疲れがたまっていき、今日はとにかくたくさん寝よう、そう思って、目覚ましをセットし、早々にシュラフに潜り込んだ。

次の日の朝、テントの周りがざわざわしているのに気づいて起きてみると、もうすでにみんなスタートの準備が整っている。慌ててテントから出ると、どうやらスタート時間が予定より1時間早まったようだった。

スタート時間はいつも前日の夜に張り出されるが、そのあと急に変更になることもある。変更になっても、変更時間が再度、張り出されるだけだ。ラリーという競技は通信手段が限られた場所で行われることが多いので情報伝達は決してスムーズではない。競技者の方が常に情報に対して敏感であらねばならないのだ。

ラリーの朝は慌ただしい。みな余裕がない。寝ることだけが唯一疲れを取る方法だから、ぎりぎりまで寝て、起きた後はダッシュで準備する。結局、その日、尾崎さんはスタート時間に遅れて、ペナルティを受けた。そのとき思ったそうだ。 「こういうときに教えてくれる仲間を作っておかなかったのは不覚であった」と。

私は名古屋の居酒屋で尾崎さんから聞いたこの話がとても好きだ。

ひとりで、ひと通りのことをできなければ話にならないが、ひとりで何でもできてもまたそれだけでは完結しない。

頭も良くて、自分で一台マシンを組めるくらいメカにも強く、周りが羨ましいと思うほどオートバイにうまく乗れて、ひとりで何でもできる尾崎さんの上にこういうことが起きたという事実にもまた、私は人生の機微を感じてしまうのである。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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