小沢コージのものくろメッセ その36 自動車ジャーナリストの未来

アヘッド 運転席 モノクロ

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連載も今回で終わりということなので、とりいそぎ思うところをつらつら書いていこうかと思う。正直に言うと、自動車雑誌はもっと早く消えゆくものだと感じていた。

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.172 2017年3月号]
Chapter
その36 自動車ジャーナリストの未来

その36 自動車ジャーナリストの未来

きっかけは2008年末のリーマンショックだ。かれこれ30年近く今の仕事、つまり一般誌や専門誌に自動車関係の原稿を書く仕事を続けているが、あれほど、自分達の存在であり職業の危機を感じたことはない。

翌年、翌々年には自分が関わっている専門誌と週刊誌が相次いでなくなり、知り合いの編集プロダクションが消滅した。当時のプロダクション元社長は今、編集業とはまるで違う大手企業の仕事をしている。

その他某専門誌の編集長が、警備員の仕事をしていると聞いたこともある。自動車についての情報や原稿が求められなくなっているのかと当時、痛切に感じたものだ。

しかしその後は意外なほど持ちこたえている。日本最大部数のベストカーは今もリアルに1号あたり30万部弱を実売し、月2回なのでひと月50万部は超える。これは結構なメジャー週刊誌でもなかなかいかない部数だ。

これはどういうことかというと、それだけクルマ好きが根強く、クルマ産業に従事している人が多いということだと思う。ちゃんと固定の読者層でありファンを獲得しているところは強いのである。

一方、自動車ジャーナリストがだんだんプチ芸人化というか、キャラクター化しているのも感じる。女性ジャーナリストが増え、ヴィジュアルを前面に出す人が増えた。これはこれで面白い現象という気がする。

自分自身もTBSラジオを始め他メディアに出ることが増えたが、それは今の自動車業界の変貌と深く繋がっている。先日、知り合いの検察関係の人と話したが、現在彼らの仕事の約7割が交通事故に関するもので、将来ほとんど無くなることも視野に入れているらしい。

交通事故が激減すると考えているのだ。これはまさしく自動運転技術導入の効果であり、これまでの技術進化以上に、政治や行政を大きく動かしつつある。そのためメジャーなメディアにコメントを求められるケースが非常に増えたのだ。

しかし、個人的に自動運転技術の導入は言うほど簡単なモノだと思っていない。単純な技術進化以上に、速度制限の決まり一つとっても今後どのように対応していくのか非常に興味深い。この手のコメントの仕事はしばらくは続く気がしている。

一方、相変わらず「乗って楽しい」を単純に報道する古典的自動車メディアは、一部を除いて確実に減っていくだろう。ただし、自分自身高齢化していく中で思うが、今の手動運転を楽しむ世代は逆に長続きする気がする。

純粋にホビーとして運転を楽しむ人やヒストリックカーを楽しむ人はちゃんと残るのだ。今後は妙にマニュアル車が売れる車種も出てくるだろうし、同人誌的存在というか、ネットを通じての自動車クラブはまだまだ残るに違いない。

同時に自動車ジャーナリストも、超カルトな存在、ヒストリックカーの知識が豊富で話が巧みな人は残るだろう。また、ハイテク技術に詳しい人も。そのどちらでもない存在はちょっと読めないが、自分自身は微妙に違う仕事をしているような気がする。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の“バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。10月よりTBSラジオ(AM954/FM90.5)にて、辛口の自動車番組『週刊自動車批評』(月曜17:50〜18:00/)が放送中。 www.tbsradio.jp/car
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