日本のオフロード車

日本のオフロード車

アヘッド SUV

ブームの加速によりクロスオーバーが常識となり、サルーンと変わらない内装を装備したクルマや、スポーツカーと同等の動力性能を持つクルマが登場するなど、ひとくちにSUVとくくれないほど、そのラインアップは拡大している。

そういう今だからこそ、未舗装のフィールドに分け入り、雪道をものともしない悪路走破性を誇る日本のオフロード車に注目してみたい。

ジープをルーツに持つSUV 〜三菱パジェロ

text:まるも亜希子


「ミツビシ! マスオカ!」 パリの街角でいきなり年配のフランス人にそう叫ばれ、とても驚いたことを思い出す。興奮した様子でまくし立てるフランス語は、通訳によれば「キミは日本人だろ? 俺はマスオカの大ファンなんだ! 帰ったら伝えてくれ、応援していると。

日本でもマスオカはヒーローか?」 そんなようなことを言っていたらしい。「もちろん! 増岡さんはヒーローよ!」 と笑顔でサムズアップを返すと、男性は満足そうに立ち去って行った。

アヘッド パジェロエボリューション

後ろ姿を見送りながら、三菱自動車が成し遂げた偉業の影響力をひしひしと感じ、日本人として誇り高い気持ちで胸が熱くなった。その偉業とはもちろん、世界一過酷と言われるダカールラリーに挑み、数百台の頂点に何度も立ってみせたことである。

今でも〝パリダカ〟という通称が残る通り、ダカールラリーは1979年の第1回大会からしばらくの間、パリの街で盛大なスタートセレモニーが行われていた。三菱がパジェロで初参戦した1983年の第5回大会も、総走行距離1万2千㎞、競技日数20日間に及ぶ命がけのレースに、385台もの競技車両がパリの街をスタートした。

市販車とほとんど変わらない仕様の市販車無改造クラスにエントリーしたパジェロは、容赦なく牙を剥くサハラ砂漠にも果敢に立ち向かい、改造クラスのマシンさえ打ち負かして総合11位でゴール。完走した競技車両はわずか90台、完走率20%という厳しいレースで、初出場にしてクラス優勝を果たしたパジェロは、一躍世界にその名を知らしめたのだった。
 
そして参戦2年目にして総合3位、3年目には総走行距離が1万4千㎞にまで延び、550台もの競技車両がしのぎを削ったダカールラリーで、日本車として初の総合優勝を飾る。ランドローバー、メルセデス・ベンツ、プジョーやシトロエン、ポルシェと、世界中の老舗メーカーがワークス体制で渾身のマシンとドライバーを送り込んでくるなか、その後もパジェロを筆頭とする三菱チームはズラリと上位入賞を果たしていく。

1997年に日本人ドライバーでの初優勝を勝ち取ったのも、篠塚建次郎氏が駆るパジェロだ。そして1987年から参戦し、メキメキと頭角を現してきた増岡 浩氏は2002年、2003年と日本人初の2連覇を達成。2007年を最後に三菱が参戦を終了するまで、7年連続・通算12勝という輝かしい軌跡に大きく貢献したのが増岡氏である。

アヘッド オフロード車

●MITUBISHI PAJERO
車両本体価格:¥4,951,800
(SUPER EXCEED/LONG クリーンディーゼル車、税込)
エンジン:DOHC 16バルブ・4気筒
インタークーラーターボチャージャー付
総排気量:3,200cc
最高出力:140kW(190ps)/3,500rpm
最大トルク:441Nm(45.0kgm)/2,000rpm

日本人を見ただけで、「大ファンだ」と伝えてくるフランス人がいるとは、きっと増岡氏本人も驚くことだろうが、それくらい、パジェロの圧倒的な強さは人々の心にインパクトを残し、今なお「日本車といえば三菱、四駆といえばパジェロ」というファンが根強いことを裏付けている。
 
なぜ、そこまでパジェロは強かったのか。その歴史を紐解くと、パジェロが誕生する前に三菱がアメリカからの委託生産をしていた「ジープ」にたどり着く。生産を始めた1953年当初は部品の組み立てのみだったが、すぐにライセンス契約が交わされて国産化が図られ、アメリカ軍や自衛隊などに向けた三菱ジープが完成。

軍用ながら、多用途に使えるジープはしだいにキャンバストップ、メタルトップ、ワゴンとバリエーションを増やし、70年代になるとファッショナブルな外観や高級感を求めたインテリアなども登場した。45年間で約20万台が生産されたこのジープこそが、三菱の四輪駆動技術の礎となったと言えるだろう。
 
そして1982年、四輪駆動車の市場が拡大し、とくに個人ユーザーからのニーズが高まりを見せるなか、華々しくデビューしたのがパジェロだ。南米に生息する野生の猫「パジェロキャット」に由来するその名には、野生味と美しさを調和させるという願いが込められ、ジープで培ったタフなオフロード性能を持ちながら、乗用車感覚の扱いやすさを実現した画期的なモデルとして注目を集めた。

リヤサスペンションにコイルスプリングを採用するなど、すでにその開発理念には既成概念を打ち破る三菱のチャレンジ・スピリットが垣間見えるが、まさにパジェロはここから、常に一歩先ゆく四輪駆動車であるために数々の挑戦を続けることになる。
 
自身も入社以来3台のパジェロを愛車として乗り継いできたという、三菱自動車のプロダクト・プランニング・マネージャーである鴛海尚弥氏は、パジェロの魅力をこう語ってくれた。

「パジェロらしさを象徴するエピソードといえば、1991年に登場した2代目に採用した、世界初のスーパーセレクト4WDシステムではないでしょうか。当時、パートタイム4WDが当たり前だった時代から、しだいにフルタイム4WDに移行していくなかで、パートタイムの良さを切り捨てるのではなく、どうにかして双方の良いところを融合させられないか、と試行錯誤したのです。スーパーセレクト4WDの特徴は、それまで一度停車して2WDから4WDにギアを入れてバックする、という手間があった切り替えが、走りながらできるようになったことでした。乗る人がより簡単に、乗用車ライクに4WDの良さを味わえるようにしたところに新しさがありました。デフの進化もモノコックボディもそうですが、パジェロが搭載してきた技術には、どうやったらお客様にもっと使いやすい四輪駆動車を提供できるだろうか、という想いが常にあったと思います」
 
さらに鴛海氏は、増岡氏にもパジェロについてのコメントを聞き出してくれていた。

「パジェロの開発でいちばん難しいのは、やはり走破性と快適性の両立なのだと言っていました。とくに足まわりのジオメトリー、つまりサスペンションの取り付け位置や角度などを指しますが、それがパジェロの肝とも言えるようです。フレーム構造だった時代に、サスペンションを付けては走り、また違う位置に付け替えては走り、というテストを繰り返して積み重ねてきたノウハウが、今も生きているということでした」
 
こうした、世の中の流れに逆らってでも良いものを生み出そうとし、効率が悪くてもコツコツと納得がいくまで突き詰める。そうした〝妥協しない〟という開発姿勢が、パジェロには脈々と受け継がれていると感じる。

「パジェロは現在、世界中どこでも同じ仕様で販売されていますので、最も過酷な環境でも耐えられる性能が、日本で走るパジェロにも備わっています。私も乗るたびに実感しますが、ちょっとくらいの雪なんかじゃビクともしない。普通に快適に走れるんです。そうした安心感、限界の高さ、そしてそれによって〝今度はあそこへ行ってみよう〟とアクティブな気持ちが生まれること。それがパジェロの大きな魅力ではないかと思います」
 
だが、日本をはじめ世界各地で厳しさを増す排ガス規制や、ルノー/日産とのアライアンスを結んだ三菱の企業戦略など、パジェロを取り巻く状況は決して楽観はできない。今後もずっと日本で販売されるのかどうか、明言はできないという。ただひとつ名言できるのは、三菱に深く根付いている志、社員の意識の中には、この先もずっとパジェロがあり続けること。

そして4WD技術の核としても、ずっと残っていくだろうということだ。その言葉に希望を重ねて、これからも三菱、そして三菱の四駆の未来にエールを送り続けたい。

アヘッド パジェロ
アヘッド パジェロ

●初代(1982年〜)
三菱フォルテ4WDをベースに、本格的クロスカントリー車として発売。当初は4ナンバーのみだったが、のちにハイルーフ化されたロングが登場し5ナンバーが主力に。デビュー時はオフロードファンから支持されていたが、1987年に本革シートなどの見栄えを重視した高級グレード「エクシード」が追加されると、時代の需要とあいまって、ファン層が一気に拡大。RVブームの牽引役となった。

アヘッド パジェロ

●2代目(1991年〜)
RVブーム真っ只中でのモデルチェンジ。他社からもRV車が続々と発売されたが、支持を集めたのはやはりパジェロだった。高価格帯ながら、国内の新車車種別月間販売台数の首位を普通車から奪うなど、その人気ぶりが伺える。特に人気が高かったのがロングボディのハイルーフ車。パジェロでスキーに出かけるのが、当時のステイタスだった。世界初のスーパーセレクト4WDシステム採用。

アヘッド パジェロ

●3代目(1999年〜)
RVブームが去った後に掲げられた開発テーマは「新世代の世界基準パジェロ」。高級&快適なSUV志向に沿うべく、乗用車並みの快適性とランクルに迫る車格を備えた。ボディサイズが一回り大きくなったことで、室内空間が飛躍的に拡大。シャシーはラダーフレームから、モノコックに変更された。クロスカントリー色が薄まり、スマートな印象となった。

アヘッド パジェロ

●4代目(2006年〜)
足回りやパワートレインなど、定評のある基本メカニズムは先代から踏襲。成熟さを増したプレミアム感の高いオールラウンドSUVへと成長した。一方でスタイリングは原点回帰。曲線的な造形が特徴だった先代に対し、一見してパジェロとわかる直線を基調としたデザインへと戻った。2008年には、先代で廃止したディーゼル車が復活している。

アヘッド デリカD:5

三菱の四駆技術が存分に活かされたデリカD:5。世界で唯一のオールラウンダーのミニバンである。「デリカでなきゃだめ」という根強いファンも多い(写真は特別仕様車のアクティブギアです)。

●MITUBISHI DELICA D:5
車両本体価格:¥3,534,840
( D-Power package/クリーンディーゼル車、税込)
エンジン:DOHC 16バルブ・4気筒 
インタークーラーターボチャージャー付
総排気量:2,267cc
最高出力:109kW(148ps)/3,500rpm
最大トルク:360Nm(36.7kgm)/1,500〜2,750rpm


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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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