目指せ!カントリージェントルマン VOL.6 雑誌とインターネット

アヘッド 吉田拓生

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自動車メディアに関わって、今年で25年目になる。四半世紀、なんて言うとイッパシな感じもするのだけれど、最近はむしろ紙に関わってきた時間が長い分だけ頭が凝り固まっていることを実感させられる日々だ。特にネット関係の人と仕事をする機会があると、「眼から鱗」な事実を教わることも少なくない。

text:吉田拓生 [aheadアーカイブス vol.182 2018年1月号]
Chapter
VOL.6 雑誌とインターネット

VOL.6 雑誌とインターネット

ネットと比べると紙の世界は曖昧なことだらけである。というと、一昔前の筆者のような、「ネット=無料、虚構」、「紙=現実」という考えの人たちは不思議に思うかもしれない。だがこの世界にいれば、雑誌の公称発行部数などは曖昧の最たるものというイメージがあるし、さらに雑誌を買ってくれた読者がその中に含まれている僕の書いた記事を読んでくれたかどうかなど知る術もない。

例えばよく売れた号があったとしても、特集の内容が良かったのか、たまたまメインで登場した車種がウケたのか、本当の原因はさっぱりわからないのである。それでも雑誌屋は経験則によってなんとなく見当をつけて前進するしかない。

だが一方、ネット関係の人の「断定」には耳を疑う。「吉田さんの記事のビュー、今月トップでしたよ。最後まで読んでいる(スクロールした)人も多かったです」というのはカワイイ方で、さらに生々しいものになると「先日のタイアップ記事で34台売れました」みたいな具体的な数字も飛び出す。

どうやってそこまで読者の消費行動を追えるのだろうか? ともあれ、もう「虚構」なんて言っていられない。お金を話の中心に据えるのであれば、ネットこそ現実的なメディアなのだ。
であるならば、今後の「紙」はどうあるべきか? 速報性では敵わない。「ダイナミックな写真こそ雑誌の真骨頂」と思っていても、気の利いた動画を付けられたらこちらも一撃で玉砕する。雑誌がネットより秀でていると思うのは文章の深さだと思っている。

これは筆者のように紙にもネットにも寄稿する節操のないライターの仕事の「質」ではない。読者の方が対価を支払ってから読むことによって文章の深みが勝手に増すのである。お金を払ったら隅々まで読んでモトを取ってやろうとするのは当然で、だから理解度が深まる。

そこがタダで読めるメディアとの決定的な違いだろう。タダならば途中で読むのをやめても惜しくはないし、メディアに対するシンパシー、帰属意識といったものも芽生え難い。
僕には「この本は生涯取っておかなくては!」と思える人生に響く自動車雑誌が何冊かあるが、ネットにはそこまでの記事はのるまい。なぜならネットはタダなのではなく、消費行動を促して初めて成立する後払いのメディアだからである。そういった意識の棲み分けさえ読者にあれば、自動車メディアの世界には紙もネットも別個に成立するはずだ。

だが文章を書く側としては、無駄なこと、直接的に利益を生まないような個人的なことを真剣に書けるという意味において、雑誌の仕事の方が楽しい。そして恐らく、読んでいただいている読者の心にも響くのではないだろうか?

ともあれ、本誌がフリーマガジンからいつしか有料になっていたのは大いに意味のあることだと思っている。

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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれ。自動車趣味誌の編集部に13年属した後、新旧の自動車にスポットを当てるライターとなる。愛車はBMW318ti、MGB、スバル・サンバー等々。森に住まい、畑を耕して薪を割るカントリーライフの実践者でもある。
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