「道路は誰のもの?」新しい交通安全の想像

「道路は誰のもの?」新しい交通安全の想像

アヘッド スマートドライブフォーラム

彼らは主に首都高速道路で、ピンクと白のチェッカードフラッグとともにハートフルなメッセージを掲げ安全運転をソフトにアピールしてきた。東京でクルマやモーターサイクルに乗る人なら目にしたことがあるだろう。

その東京スマートドライバーが昨年、全国規模のNPO法人「日本スマートドライバー機構」に発展したことを受け、3月1日に東京虎ノ門で「スマートドライバーフォーラム」を開催することになり、スピーカーのひとりとして筆者も登壇することになった。

テーマは「新しい交通安全を創造する」 一見すると難しいテーマに思えるけれど、自分にはピンときた。

数年前に通学途中の小学生の列に自動車が突っ込んで幼い命が奪われる事故が頻発した頃。自動車業界関係者が「自動運転が実用化すれば事故はなくなる」と発信して大顰蹙を浴びたことがあった。自分もこの論調には怒りを覚えた。

筆者は自動運転を推進するひとりであるが、技術の進化だけで交通事故がゼロになるとは思っていない。理由は簡単。人間がミスを犯す以上、その人間が作り出す機械もミスを起こすからだ。

技術に頼りすぎる風潮がある今こそ、思いやりや気遣いといった、マインドの部分の交通安全を大事にすべきではないか。そんな気持ちを抱いていたジャーナリスト代表の自分が掲げたテーマは「道路は誰のもの?」だった。

アヘッド スマートドライブフォーラム

WHO (世界保健機関)の調査で、日本は交通事故死者数に占める歩行者の割合が、先進国で飛び抜けて高いという結果が出ている。一方欧米の道路では、日本より歩道を広く取るなど、人間優先のまちづくり道づくりが行き届いていた。

たとえば24時間レースで有名なル・マンでは、旧市街のメインストリートにLRT(日本では次世代型路面電車システムと訳される)を通し、周辺の住宅地にはライジングボラードと呼ばれるリモコンで上下するポールを設置するなどして、安心して歩いて暮らせる街を構築している。

またバルセロナでは26年前の五輪パラリンピック開催を機に大規模な再開発を実施。街を東西に貫くディアグナル通りでは中央分離帯に自転車レーンやLRTを導入するとともに歩道を広く取り、ベンチまで置いて安らげる空間を生み出していた。

アヘッド スマートドライブフォーラム

道路はなによりもまず人のためのものであり、自転車、クルマ、LRTなどさまざまな乗り物が共有して移動を支える場という意識をみんなが持てば、日本の交通安全につながるのではないかというメッセージを出させていただいた。

でも正直言うと、今回は観客のひとりとして楽しませてもらったという気持ちのほうが大きい。中でもキーノートを担当すべく米国からやって来た都市開発計画家タッカー・リード氏は、荒廃した街だったニューヨークのブルックリン地区をわずか5年で憧れの街へと変えた立役者だけあり、引き込まれる話の連続だった。

小山薫堂氏と家入一真氏、石川善樹氏によるディスカッションも興味深かった。スマートとドライバーという2つの言葉の語源を探ることから始まり、水滴が落ち続けて岩に穴を開けるように、小さなアクションでも育っていけば大きなパワーになることを、さまざまな実例から紹介していた。どちらも正面から交通安全を語っているわけではない。他の多くのスピーカーたちのプレゼンテーションもそうだった。

でもそこが逆に大切ではないかと思った。私たちが心地よく暮らせる環境はどういうもので、そのためには何をすれば良いか、という原点に立ち返って考えたほうが、この国に新しい交通安全が芽生えそうな気がする。

▶︎3月1日、虎ノ門ヒルズフォーラムにて開催された「SMART DRIVER FORUM」。全国の交通安全組織、行政、警察、メディア、そして自動車メーカー関係者など約250人が参加。新世代の交通安全について考えた。モータージャーナリスト・モビリティジャーナリストの森口将之氏もパネリストの1人として登壇。「道路は誰のもの?」と題して、8分間のスピーチを行った。


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text:森口将之/Masayuki Moriguchi
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・テレビ・ラジオ・講演などで発表。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員を務める。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」など。

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