おしゃべりなクルマたち Vol.71 フランス流節約術

Vol.71 フランス流節約術

イラスト 武政 諒

私が嘆くと友達のフランス人にこう言われた。「金銭感覚も含めて、数字の観念ないよね」、無駄に敏感で、セコいわけではないがお金に細かく、4つ要るものは3つで済ませる、彼女はそういう人間で、私とは正反対。時折、息が詰まるものの、気が合うところが自分でも可笑しい。

そういえば初めて彼女と一緒に教会に行ったとき、私が献金箱に5ユーロ札を入れたら、「多過ぎる!」とぴしゃりと手を叩かれた。「アタシたちの生活レベルなら硬貨で十分だからね」、こう言われてむっとした。ちなみに献金箱に指を突っ込み、しわくちゃのお札を引っ張り出すヒトを見たのはこの時が初めてだ。 

さて、こんな友達がクルマを買い換えることになった。知り合って10年、初めてのイベント。彼女の愛車は20万キロを突破したフォード フォーカスだが、免許を取った息子にこのクルマを回すことにしたために、自分のクルマがいるのだ。
 
想像通り、お金がかかると盛んに愚痴る。だったら息子に安いオンボロを買って、フォーカスに乗り続けたらいいじゃないと私が言うと 、そこから長い話が始まった。話が長いのは、値段、保険料、走行距離、馬力など、数字がすべて一桁まで正確に表されるから。すべて繰上げか、だいたいで済ませる私とは大違いだ。

要は自分がフォーカスに乗り続けて息子に保険料の安い(排気量で決まるため)ツインゴを買えば今、出て行くお金は抑えられても、結果的には高いものになるということらしい。それにしても数字だけのクルマ選びは実に味気ない。私の退屈を見抜いた友達が餌を投げる。「でね、いい出物、見つけたのよ」 なになに?

「フォーカス、だってこれ以上にいいクルマないから」 最初は唖然、がっかり、しかしそのうち、笑いがこみ上げてきた。あまりにぴったりの選択だったから。
 
今でこそこんなことを言うヒトは少なくなったが、かつては、下取り価格が落ちないこともあって、フォードに一度乗ると、二度と抜けられなくなると言われたものだった。市場が拡大して選択肢が増えた現在でもフォードにはこのブランドしか信用しない固定ファンがいる。

その丈夫さには定評があって、華には乏しいが、実を重んじる向きにはオペルと共にゆるがぬ信頼をキープする。ラリーのフォードなんて友達は知らない。もちろんヘンリー・フォードのことも。彼女の口癖は「クルマにロマンを求めるな」、よく友達でいられるとしみじみ思う。

出物は此処から30キロの場所にある。ヒトが買ったクルマを一緒に取りに行くのが大好きな私は送って行くと張り切ったが一蹴された。「あなたの帰りが無駄。カーシェアリングで行くから」 友達を続けるか、一度、真面目に考えよう。

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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