現代のスーパーカー vol.5 時速378㎞/hの美術工芸品

アヘッド vol.5 時速378㎞/hの美術工芸品

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スーパーカーは、呆れ果てるくらいに売り値が高い。一発当たれば〝あがり〟も大きいわけで、そこにスーパーカー・ビジネスに手を染める(?)大きな意義がある。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.115 2012年6月号]
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vol.5 時速378㎞/hの美術工芸品

vol.5 時速378㎞/hの美術工芸品

なので新たに参入しようとする志の高いカー・ガイもしくはビジネスマン、あるいは志を知らないペテン師が後を絶たない。フェラーリやランボルギーニのような老舗が圧倒的な信頼感を得て歴史を刻み続けてるのは〝大金を払っただけある〟とユーザー達を満足させ続けてきた積み重ねがあるからで、新参者が「スーパーカー・メーカーでござい!」と声を大にしたところで、簡単にお客がついたりはしない。

誰も得体の知れない相手に支払って数千万円をドブに捨てるようなことはしたくないのだから。それにスーパーカーは開発に要するコストも一般乗用車とは比較にならないほど莫大で、企業として経営を成立させるのも、外野が考えるほど容易なことじゃない。

そうした中にあってしっかりと成功を収めているのが、パガーニ・アウトモビリ社。フェラーリやマセラティのお膝元であるモデナの近郊に居を構え、一部では世界一と太鼓判を押されるほど高い評価を得ているスーパーカー専門メーカーだ。50人+アルファ程度の従業員数というから、むしろスーパーカー専門工房と呼ぶ方が相応しいかも知れない。

パガーニの当主は、ランボルギーニ・カウンタック〝アニバーサリー〟のデザインやディアブロのボディワークなどを手がけてきたアルゼンチン生まれのデザイナー、オラチオ・パガーニ。1993年にプロジェクトをスタートさせ、1999年のジュネーヴ・モーターショーで〝ゾンダ〟というモデルを発表。それが売れた。

いや、台数自体は非常に限られたものだったが、日本円にすれば1億円を飛び越えるプライスを掲げ、それを支払うほどの目の肥えた人達を納得させ、満足させるだけのプレゼンスを、クオリティを、パフォーマンスを、すべて兼ね備えていた。

オラチオ自身のデザイナーとしての美意識の高さが、台数勝負の老舗メーカーにはコストや効率の面で絶対に手を出せない領域の、驚異的なレベルのクルマ造りを現実のものにしたからだ。

そのゾンダの後継にしてオラチオ自身が〝芸術作品〟と呼ぶ『ウアイラ』。誰もが見惚れるスタイリングも、378㎞/hという最高速度も、美術工芸品に包まれるような居住空間も何もかも併せ持つ、最新にして唯一の現行モデルである。少し例をあげるなら、1枚のエンブレムを掘り上げるのに職人が丸1日を費やすような、F1のパーツを製作するサプライヤーがチタンでエキゾーストをこさえるような、恐ろしく手間とコストのかかった造りがなされているという。

正式な価格は公開されてないが、噂によれば約100万ユーロ以上。それでもオーダーした人からは「安い!」の声が上がっているというから、どれほどのレベルのクルマなのか、想像もつかない。
●パガーニ・ウアイラは、イタリアのパガーニ・アウトモビリ社が2011年に発表したモデル。カーボンとチタンで構成される車体に、700ps/102kgmという強烈なチカラを発揮するAMG製の6リッターV12ツインターボエンジンをミドシップレイアウト。0→100km/hは3.2秒、最高速度378km/hと老舗のスーパーカー達にも全く引けをとらないパフォーマンスを誇る。もうひとつの特徴は、外装・内装ともに美術工芸品のような凝った造りを持っていることで、走ること以外のスーパーカーとしての資質にも徹底的にこだわっている。


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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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