R32スカイラインに負けた!・・・トヨタが90系マークⅡで採った戦略、ツアラー誕生の経緯とは?

gt-r r32

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1980年代後半から1990年代前半にかけての日産自動車の勢いは素晴らしいものがありました。

生み出される製品のデザイン、性能ともに高い評価を得て多くのユーザーの共感を得ていた時代です。

とくにローレル、セフィーロ、スカイラインの三台はその中心的な存在で、LクラスFR車として走りの良さ、エンジンの良さ、趣味の良さなどが支持されました。それまで日産を劣勢と認識していたトヨタ自動車はこの事実に大きな危機感を抱きます。

そんな状態で開発が進められた90系マークⅡとはどんなものだったのか、探ってみたいと思います。
Chapter
なんていいクルマなんだ!
ハイソカーの代名詞、爆発的人気
そしてツアラー設定へ

なんていいクルマなんだ!

「なんていいクルマなんだ!」

マークⅡの開発責任者だった渡辺氏はR32スカイラインに試乗した時に、こう思ったそうです。

後日、某自動車番組に出演し、C34ローレルの開発責任者と対談をする企画で、この印象を素直に「告白」されていました。それくらい、渡辺氏の「クルマ屋」としての信念を激しく突き動かしたのがR32スカイラインの「走り」だったということなのです。

もちろん。

敵ながらアッパレ、などと呑気なことは言っていられない・・・販売では上位でも、むしろ「負けた」と思っている・・・

81系に続く90系の開発に当たってはスカイラインを強く意識していたといいます。

ハイソカーの代名詞、爆発的人気

平成二年の81系マークⅡ三兄弟の販売台数は、なんとカローラを抜いて国内首位でした。時代の求めに応じユーザーの心理にマッチした製品作りはトヨタのお家芸です。

日本は当時バブル景気に湧き、贅沢嗜好、総中流意識というトレンドにありましたから、マークⅡ三兄弟のような贅沢な印象のクルマはそんな潮流に見事に乗ることができ、高い人気を得たのです。

ベージュやマルーンのフカフカのモケット張りの内装、ちょうどソアラを4ドア化したようなイメージのスタリング、重厚な乗り心地と常識的で安定したハンドリングは、曲がり重視でこそなかったものの、高級乗用車としてふさわしいものになっていました。

しかし・・・
名前以外は、すべて新しい...

このキャッチフレーズが90系マークⅡの全てを物語っているようです。

見た目は従来のマークⅡのイメージを踏襲。トヨタとしては既存客を捨てるという売り方は絶対にしませんからそこは大きく道を外すことはしない。けれど、その中身は非常に意欲的なものになっていました。

100キログラムの軽量化、しかも旧81系より大幅にサイズアップしたにも関わらず。これだけでも90系マークⅡが「走り」を強く意識していたことがわかるように思います。もちろん、時代はポストバブルに向かっていましたからコストダウンの意味もあったでしょうし、燃費も無視できない時代に突入してもいました。

しかし90系が走りを強く意識していたことは乗ればわかりました。以前よりしっかりとしたハンドル、ブレーキ、旋回性能、つまり動的性能は全方位において大幅なレベルアップを、売れ筋の「グランデ」においても確実に果たしていました。

そしてツアラー設定へ

90系最大のトピックといえばやはりこのツアラーグレードの新規設定でしょう。

ダーク系のカラーをイメージ色に設定しガンメタに塗られた16インチホイールにハイグリップタイヤ、だけでなく、足廻りやブレーキの大幅強化による、1JZ-GTE型280馬力エンジンを最大限生かせる土台を作り上げました。

これはもちろん、スカイラインの、とくにGT-Rを強く意識したものでしょう。GT-Rはレースに出ることが前提のスパルタンなモデル。アテーサETSやスーパーハイキャスを搭載し、勝つためのクルマとして突き抜けた存在。

しかしツアラーVはその名のとおり、どちらかというとハイスピードツアラーというコンセプトで、駆動方式はFRですし同時に快適性を維持しながら時にスポーツ走行も十全に楽しめる・・・GT-Rよりややターゲット層に幅を持たせました。

そのことがむしろ、トヨタ自動車の固定客にとって「バランス感覚の良いスポーティカー」として認識され、ツアラー系は独自の親派を獲得していきます。

王者トヨタに危機感を与えたR32スカイラインの破壊力。

そのあたりは今に続くR32神話、R32人気がなにより雄弁に物語っていますが、それはライバル、トヨタの、しかも売れ筋銘柄を作る責任者のハートにも火をつけてしまいました。結果、マークⅡ三兄弟はそれまでの、ただの「おじさんグルマ」から脱却し、「ツアラー」という新カテゴリーを得て支持層を大幅に厚くすることに成功するのです。

このように、お互いを刺激し合いながら製品を良くしていくというクルマ作りは、ただただ販売台数の勝ち負けばかりに目を囚われることのない、自動車の本質的な向上や成長を促しているようにも見て取れます。

粛々と作られていたかに見えてじつはこのようなエピソードもあるマークⅡひとつ取っても、自動車の開発というのはやっぱり「情熱」が一番大事であることを強く感じさせられますね。
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