日産 S13型シルビアは運転の仕方と楽しさを教えてくれた先生のようなクルマ!

シルビアS13

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気が付けばクルマが好きになり、小学生のころから自動車雑誌を読んでいた。だから、自動車免許を取得して自分のクルマを所有する日が待ち遠しかった。運転免許は18歳になってすぐに取得。そして自分のクルマを手にしたのは、19歳になるころだった。そのクルマこそが、S13型のシルビア。人生初のマイカーである。

文・工藤 貴宏

工藤 貴宏|くどう たかひろ

1976年生まれの自動車ライター。クルマ好きが高じて大学在学中から自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。卒業後に自動車専門誌編集部や編集プロダクションを経て、フリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジン搭載のマツダCX-5。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

工藤 貴宏
Chapter
スカイライン…後期型…全てを妥協した車選び
CAエンジンは個性的で表情豊かな愛着のわくエンジン
S13シルビアは操る楽しさと美しいデザインを兼ねそろえたクルマ
S13シルビアはチューニングを行うたびにガラッと性格が変わる
無理な走行でボディ剛性が低下…
S13シルビアは素晴らしい素材!

スカイライン…後期型…全てを妥協した車選び

ターボで、MTで、後輪駆動。これが愛車選びの条件だった。でも、当時(1995年)はすでにその条件を満たすクルマは多くなかった。正直に告白すれば、本当はシルビアじゃなくてR32型スカラインの「GTS-t タイプM」が欲しかった。読み漁っていた自動車雑誌で走行性能(とくにハンドリング)が絶賛されていたからだ。

しかし現実は厳しく、中古でも高値。そこで選んだのがS13シルビアというわけだ。今では考えられないけれど、当時はまだS13シルビアの中古価格は“高値安定”ではなかった。

選んだのは、前期型のターボエンジン搭載グレード「k’s」。新車登録から5年経過した中古車で、走行距離は4万2000kmほど。S13シルビアは前期型と後期型でエンジンが異なり、前期は「CA」という古いタイプの1.8Lエンジン。後期は「SR」と呼ぶ新しい2.0Lエンジンを組み合わせる。

どう考えてもSRエンジンのほうが優れているのだが、学生の身分にはそれも高嶺の花だった。無い袖は振れないのだから仕方がない。今になって思えば、第一希望の車種ではない、エンジンは古いタイプ、となんだか妥協のクルマ選びだった。だけど、「ターボ」と「MT」は貫いた。なぜなら、ドリフトを覚えたかったからだ。

CAエンジンは個性的で表情豊かな愛着のわくエンジン

当時は実感がなかったけれど、振り返ってみるとCAターボは癖のあるエンジンだった。いわゆる「ドッカンターボ」で、回転を上げないとパワーが盛り上がらない。だけど高回転が気持ちいいかといえば、そうでもない。

カタログ値で175psと(当時としては)それなりにパワーが出ていたので気にしていなかったけど、いま振り返って考えると本当にたいしたことのないエンジンだ。いっぽうでSRエンジンは、高回転の爽快感がないのは同じとしても、低回転域からトルクが太くて扱いやすかった。機械としては、どう考えてもSRエンジンのほうが優れている。

しかし、CAエンジンは癖がある分だけ妙に人間味がある。低回転から力があるよくできたエンジンは優れているけれど、CAエンジンのようにアクセルの踏み込み方によって表情を変えるほうが個性的で愛着が持てたのはきっと気のせいじゃないと思う。だから、結果的にはCAエンジンでよかったと信じている。

S13シルビアは操る楽しさと美しいデザインを兼ねそろえたクルマ

運転は、それはそれは楽しかった。一生懸命に練習したヒール&トゥに、おっかなびっくりのテールスライド。今どきのクルマと違って80年代に設計されたクルマは走りの完成度が低く、そのぶんドライバーの腕が問われた。

ドライバーが上手に扱えばスムーズに走るけれど、峠道でちょっとでも無理をさせるとアンダーステアとして機嫌を損ねたのだ。上手にシフトチェンジしないとクルマがガクガクする。だからスムーズなシフトチェンジを覚えることになる。

そんなクルマと出会えたことで、S13シルビアに乗っている間はどんどん運転が上達した。はじめての愛車にうれしくてうれしくて仕方がなかったから、暇があればクルマを運転し、走行距離はどんどん伸びていった。

そんなS13シルビアのデザインは、とにかく美しかった。美しい曲線で描かれたライン、そして日産車としてはじめてフェンダーフレアのない側面の面構成。インテリアもシンプルな造形のダッシュボードからセンターコンソールへのスムーズなつながりもセクシーだ。こんなクルマを初めての愛車にできたのは、幸せだったと思う。

S13シルビアはチューニングを行うたびにガラッと性格が変わる

しばらくはノーマルで乗っていたけれど、走り屋を気取っていたボクは、半年ほどたった頃からガソリンスタンドのアルバイトで貯めたお金を使ってチューニングに手を染め始めた。

まずはブレーキ。ノーマルでは頼りなかったブレーキ(黎明期のABSはアクチュエーターのせいか本当に効かなかった!)は、ブレーキパッドを換えることでしっかりと効くようになった。

次いでサスペンション。ちょっと強引に曲がろうとするとアンダーステアが発生するハンドリングは、バネとショックアブソーバーを交換するだけでシャープな回頭性と旋回中の安定性を手に入れることができた。

当時のノーマルサスペンションは、ちょっと手を入れるだけでガラリと走行性能が上がるほど完成度が低かったのだ。サスペンション交換で気持ちよく曲がれるようになり、コーナリングスピードもグッと向上。そしてブレーキとサスペンションのチューニングは、動的安全性も高めた。

それからタイヤ&ホイールを履き替え、マフラーも交換。きわめつけは機械式LSDの装着だ。ドリフトをするための必須アイテムといえるLSDを組み込んだことで、後輪を滑らせる行為は抜群にコントローラブルになった。

工賃込みで10万円ちょっとと、学生にとっては痛い出費だったし、5,000kmごとにデフオイルを交換しなければならなくなったけど、装着して本当に良かったと思う。

無理な走行でボディ剛性が低下…

ただ、S13シルビアとのカーライフはいいことばかりではなかった。楽しんでいると弊害が起きてきたのだ。それは、ボディの剛性低下である。

そもそもボディ剛性が高くなかったのに加え、補強もせずにドリフトして走り回っていたらボディ剛性が大幅に落ちてしまったのだ。路面からの入力を車体が吸収できなくなって衝撃が減衰されず、路面の段差で車体がヨレてハンドリングが変化する。そんな状況になってしまった。しかし、これは車体の設計上どうしようもない。

ある時、当時に流行っていたサイドシルの発泡ウレタン補強を試してみた。効果はかなりあったけれど、ボディ剛性低下はそれでも間に合わないくらい進んでいた。それでも、運転は楽しかった!

S13シルビアは素晴らしい素材!

S13シルビアの最大のよさ、それは素材としての素性ではないだろうか。完成度が低かったからこそ、自分の手でカスタマイズする楽しみがあったし、カスタマイズでどんどん走りが磨かれていく喜びもあった。

そして、僕にとってS13シルビアとは、運転を覚えるための練習機のような存在でもあり、クルマの楽しさを教えてくれた先生である。こうしてS13シルビアに惚れまくったボクは、約6年乗った後にS15シルビアへと乗り換えた。S15に乗ったら、その完成度の高さに驚いたのは言うまでもない。
そんなS13シルビアは、ボクの手元を離れてからもうすぐ20年になる。けれど、その楽しさや一緒に走った日々のことを一生、忘れることはないだろう。
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